古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第45回は樋口卓治が担当します。

樹木希林 様

 今回、私が勝手に表彰するのは樹木希林さんである。

樹木希林

 世の中をスキー大回転に見立てると、しがらみ、妬み、バッシング、炎上といろんなポールが行く手に立っている。そのポールに触れるか触れないかのギリギリの距離で、スイスイ滑り降りる名手がいる。

 私は樹木希林さんにそんなイメージを持っている。
 
 子供の頃、ドラマ『寺内貫太郎一家』で大いに笑った老婦役が実は30代と聞いた時、子供ながらにのけ反って驚いた。

 人気アイドル真っ最中の郷ひろみさんとデュエットした『林檎殺人事件』は、違和感しかないユニットなのにワクワクが止まらない。

 そして切なくなる。歌なのに名作短編のようだった。

 テレビ黄金時代に、数々の場数を踏み、その才能を養われたのか、元からすごいのかはわからないが、今のヒステリーな時代をどこ吹く風で生きておられる、あっぱれさがある。

 マネジャーもおらず、仕事は自宅のファックス&留守電にオファー。スタジオに私服で現れ、椅子の横にカバンを置き、収録が済むと楽屋にも戻らず、お帰りになる。

 あるドキュメンタリーで、地元の人が記念にと、お土産を希林さんに渡そうとした。カメラが回っている。普通ならお礼を言って受け取るはずが、「いらないわ」と断った。テレビの前で「マジか!」と思わず声を上げてしまった。

 調和のとれていない予定調和、ルーチンな社交辞令にひょいと背を向ける。

 この潔さは、時に偏屈者に映ることがあるが、希林さんにはそれがない。それは、いつも実力が期待を上回るからだ。