さらに、麻里子さんに何かとお金をせびるようになり、子供のために貯金していた100万円はあっという間に、底をついた。

「一番辛かったのは、“お前、生きてる意味あんの?” “死んだほうがいいんじゃね?”と、これでもかと罵倒されながら、長時間正座させられたことですね。謝っても、“ごめんなさいの声が小さいわぁ!! お前、なめとんのか!! もっと声張れやぁ!!”とドスッと蹴られる。正座って、ずっと座ってるとお尻にかかとが当たるじゃないですか、痛くて座ってられなくなって。それで体勢が崩れると、何発も蹴りを入れてくる。DVが終わってからお風呂に入ったら、すごくお尻が腫れて、熱を持っていたんです」

 あまりの激痛で病院に行くと、診断名は、骨盤打撲――。麻里子さんが持っている大輔からのDVの診断書は5通にも上った。

「蹴られると、まず、グラッと、ふらつくんですよ。体重が100キロあって、力が強いので、身体ごとふっ飛んでいくんです。それでふらっとして何かが頭に当たったりして、なんかあったらどうしようという危機感がありましたね。食器棚が近くにあったので、蹴られて吹っ飛んで、食器棚に当たって炊飯器が落ちたことがあったんです。それがあってからは、もしかしたら当たり所が悪かったら、と思って怖くなるんです」

 それほどまでに、麻里子さんがDVに耐えていたのは、ある理由があった。後編ではその理由と、暴力から逃れる決死の覚悟にいたるまでを追う。

※後編はこちら
DV被害シングルマザーの告白<下>「どんなに辛くても、奴隷でいようと決めた」

【文/菅野久美子(ノンフィクション・ライター)】


<プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。