本来であれば飲む必要のない強い抗うつ薬を大量に飲まされ、大学卒業後ずっと勤務していた福祉系の団体を休職。

「大酒飲みでしたので、薬とお酒で痛みをごまかすような生活が続きました。妻子がおりましたが、離婚しました。駅のホームから飛び込もうとしたところ、駅員に助けられて、警察に連れて行かれて、親が身元引受人になってくれました。そこから私のひきこもりが始まりました」

 以前とはがらりと変わってしまった大人の息子の姿に、親も戸惑った。

立ち直りのきっかけ

「父親は腫れ物に触るみたいな感じで何もできず、母親がとにかく叱咤激励してという日々が1年以上、続きました。ただ、それが逆につらかったんです。話ができる状況ではなかったので、クリスチャンの母親は手紙を書いてくる。“あなたはそんな子じゃない”とか“神様は人間をそんなふうにつくっていない”とか」

 ただ、親元にいたおかげで3食食べることができ、抗うつ剤や酒を抜くこともできたという。やがて訪れる立ち直りのきっかけについて、牧野さんが続ける。

母親からの手紙がやんだことです。何も言わなくなった。そこから私自身のエネルギーが湧いてきたんです。区役所に電話をかけて相談をしました。東京都のひきこもりの地域支援センター『ひきこもりサポートネット』に、都から紹介されて電話をしたんです」

 そこで牧野さんは、ひきこもりに年齢の壁が立ちはだかることを思い知ることになる。

40歳以上はサポートの対象外なんです。話は聞いてくれますが、訪問に来たり、何か紹介してくれることは一切なかったです。“ごめんなさい、東京都では40歳以上の方はどうしようもできなくて”というような回答でした」

 頼ったところは前出・深谷さんがソーシャルワーカーを務めるNPO。“東京の巣鴨でひきこもりの経験者や当事者が集まる会があるから、頑張って巣鴨まで出てきてごらん”と誘われるまま足を運んだ。