ゼロから育て直してもらった
現在、明るい表情で目の前にいる奈央さんが、手で丸くコップの形を作りながら、説明してくれる。
「このコップの中に“考え方”とか“価値観”という水が入っているとして、それを捨てないと自分は苦しくなってしまう。私は『なのはな』に来て、そのコップの水を全部捨てて空っぽの状態にしたんです。
そして、ここで暮らしながら、自分が本当に喜びと希望を持って生きていくために、自分なりの正しい生き方や考え方を、このコップの中に新しく入れてきました」
それを奈央さんは、「なのはなで、ゼロから自分を育て直してもらった」と言う。
「だからある意味、年齢にそぐわない世間知らずなところがあって、いいのか悪いのか自分でも年齢をほとんど忘れているんです(笑)」
奈央さんと話していて、ピュアな子どものようなまっすぐさを感じていたが、「育て直し」と聞いて納得した。
「なのはなのお父さんとお母さんから、“奈央はすごく人を信じる力がある”と言ってもらったことがあるんです。あまり人の言葉の裏を考えたり、疑ったりしないって。
例えば、お父さんとお母さんが“奈央のことが好き”と言ってくれたら、“本当に私のことを好きだと思ってくれているんだなぁ”と、そのままシンプルに受け取れる。確かに、自分にはそういうところがあるな、と思いました」
あんなにも親の価値観にがんじがらめになっていた人生なのに、なぜ奈央さんはそこまで「お父さん」と「お母さん」を信じることができたのだろうか。
「自分が何に苦しんでいたのか。なんでこんなに食べ吐きをしてしまうのか。その気持ちをわかってもらえたことが大きいです。ずっと生きることが苦しくて、それは自分のわがままなんだ、もっと強くならなきゃダメだ、と思ってきたけど、生きづらいと感じることは決して間違ってはいなかったと教えてくれました。
それまで私の親は、心配はするけれど、私を肯定してはくれなかった。でも、お父さんとお母さんは症状があることを“そうなって当然なんだよ”と認めてくれて、自分の苦しさも悲しさも全部、受け入れてくれたんです。
お父さんとお母さんの前だったら、素直に泣くことも怒ることもできる。安心して感じることを伝えられたんです」
奈央さんの心は絶対的な信頼と安心感にくるまれて、もう1度、産声をあげたのだ。
(次回へつづく)
〈取材・文/相川由美〉