業者に頼んだ奇妙な注文
前出の友人男性は、
「石橋さん夫婦は昨年、家の瓦や雨戸を数百万円かけて新しくしたんです。娘のためにリフォームしたんだと思います」
そう話す男性の後をついていくと、事件現場から約30メートル離れた駐車場にまだ新しい石橋さんの愛車が止まっていた。
「ナンバープレート、わかります? 1484、イシバシなんです」
夫婦は“終活”に入ってもおかしくない年齢。家も新車も容疑者のために残したものだったのだろう。
善明さんが足しげく通っていた場所がある。自宅から車で約15分のところにある市民農園だ。そこで顔を合わせていたという70代の男性は、
「石橋さんはここで12年くらいやっているんじゃないかな。畑の近くにはペットの墓地があって、“愛犬のお墓参りの帰りに野菜を取りに寄った”なんてことを話していました。ときどき奥さんも収穫を手伝っておられた」
ところが、善明さんは、
「野菜が嫌いだから、育てても近くの人にあげるだけ。先日(6月2日)も大根をもらったばかりです。大根からトマト、キュウリ、何でも作っていたよ」(前出・友人男性)
野菜作りのほかにも、自宅の庭の手入れに余念がなかったという。真っ赤なカンナの花を見事に咲かせていた。
自宅リフォーム工事が始まる前、善明さんはペンキ塗りの業者に妙な注文をつけた。
「静かに塗ってくれ」
そもそも、さほど大きな音を立てることはないが、職人は約束を守って作業したという。容疑者は長い幽居生活で音に敏感になっていたのか。とすれば、雨戸の開閉音も気になったのかもしれない。
善明さんが守ってきた石橋家という家族は、野菜や植木を育てるようにはうまくいかなかった。
市民農園の石橋さん区画には、収穫間近のキュウリ、赤くなる前のトマト、丸々とした大根が、誰にも収穫されることなく残されたままだ。