「ちゃんと付き合いが深まってからの不妊治療、という順番ならわかります。肉体の関係がないままというのが不思議でした。このとき、お互いに40歳。彼女のことは好きでしたし、不安や年齢的な焦りも理解できた。僕は不妊治療に同意し、すぐに結婚することを決めました」
不妊治療はお金がかかる。しかも、入籍していないと治療は受けられない。
排卵日のたび病院に呼ばれ、結果として3回の不妊治療を受けた。かかった費用は100万円を超えたが、すべてYさんが負担した。
「妻はとにかく子どもが欲しかったんだと思います。不妊治療後、彼女もあきらめたのか、初めて普通に愛を育むことができました」
精力剤に頼らないと──
しかし、いつしか妻の態度は豹変(ひょうへん)。キスすら嫌がり、セックスは彼女の排卵日だけ。行為が終わると、食事もせず実家へ帰ってゆく。次第に、黙ってひとり旅に出たり、男友達と飲みに行ったりするように。
「高校の同級生だったせいか、ずっと名字で呼ばれていたし、正直、夫婦になった実感は薄かったです」
彼女を喜ばせたい、安心させたいと思っていても、いつも空回り。“子を授からないと幸せになれない”という焦りが募る。Yさんは、薬局で精力剤を買って飲まないとセックスできない状態にまで追い詰められていた。
会っても「疲れた」と、ため息をつく彼女を見て“お互いのためによくない”と離婚を決意。離婚届を郵送で彼女のもとに送った。
「半年後、彼女から離婚届を役所に提出したというメールがきました。子づくりの終わりが縁の切れ目だったんでしょうか……」