諒が成人した後も、加藤さんが訪ねてくることがあったという。
「10数年前に独立してひとり暮らしをしていたときに、父がやってきました。普段は買い物をしない人なのに、スーパーの袋をぶら下げていたんです。どうしたのか聞くと、“めずらしいものがあったから買ってきたよ”と。何だろうと思って開けてみたら、ペヤングのカップ焼きそばが入っていました。
“これは焼かないのに焼きそばができるらしいんだ。おもしろいからちょっと一緒に食ってみよう”と言うんです。“めずらしくないよ”とは言いにくくて、“ああ、そうなんだね”と2人でしみじみと食べましたね(笑)」(諒)
二枚目で、非の打ちどころがないイメージの強い加藤さんだったが、お茶目な一面もあったようだ。
父のおかげで初心を忘れずにいられる
ただ、仕事に関しては、人に影響を与えることも多かった。加藤さんと同じ事務所に所属し、現在も俳優として活躍している次男の頼(38)も彼の影響を受けたうちのひとりだ。
「父は家で稽古をすることもあったので、子守歌がわりに、その光景を目や耳で触れていました。幸せなことに父と同じ劇団に入ったので、親子の役や同一人物の若いころの役と現在の役を2人で分けて演じることもできました。
仕事を始めた当初は、父に似ていると言われることがイヤだったこともありました。でも、どうせ同じ職業に就くなら、同じところで挑戦したいという思いがあったんですよ」
親子で共演し、父の背中を間近で見たことで学ぶことも多かったという。
「実績に満足してしまって、向上心がなくなってしまう人が多い中、常に自分のやっていることに疑問を持ち続け、今日よりも明日をもっとよくしようと努力していました。そのおかげで、私も今日まで初心を忘れずにいられましたね。
父は、私に本番や稽古のときも、一緒に舞台を成功させるための役者仲間として接してくれました。アドバイスをするときも、後輩で息子である私が相手でも、上からああしろ、こうしろと言うことはありませんでした」(頼)
諒も、父親から受け取った言葉を心に刻んでいるという。
「父はいつも、“人のために涙を流せる人間になりなさい”と言っていました。俳優としての実績では比較になりませんが、この部分は引き継いでいきたいですね」
加藤さんは、自分の教えを引き継いだ2人の息子がさらに成長していくことを願っているだろう。