飼い犬や猫の飼育放棄の現状
高齢者が自分自身でペットの世話をすることが難しくなっても、同伴入居し、安心して暮らしていける施設も出てきた。だが、これはほんのひと握りにすぎない。
「“さくらの里 山科”を見つけるまでに、ペット同伴入居を謳(うた)っているサービス付き高齢者向け住宅や、有料老人ホームもずいぶん探してみたんです。でも、どこの施設に行っても、ペットの世話は入居者自身でしてもらいますと言われました。それができないから探しているのに……」(前出の榊原さんの家族)
では、飼い主が世話を続けることができなくなった動物たちはどうなるのだろう。
「私たちが行った調査によると、所有権放棄した飼い主の年代は60代以上が56.3パーセントを占めていました。この比率は調査後も増加していることが予想されます」
そう語るのはNPO法人『人と動物の共生センター』代表で獣医師の奥田順之氏だ。ペットフード協会によると、犬猫の飼育率は50代でもっとも高く、次いで60代。犬の飼育状況に関しては、この2世代を合計すると、全体の1/3を占める。
一方で’17年度の犬の平均寿命は14.19歳、猫の平均寿命は15.33歳と発表されていることから、子育てが終わり、仮に定年後の65歳で犬猫を飼い始めたとすると、80歳近くまで養う必要があるとわかる。
「飼育放棄の理由については“飼い主の死亡・病気・入院”がもっとも多く、26.3パーセントでした。これは犬を対象とした調査でしたが、猫でも“計画外の繁殖”を除けば、同じ傾向です。ご高齢の飼い主さんが増える中で、“最期まで面倒を見られないなら飼ってはいけない”とするというのは、時代にそぐわなくなってきているのかもしれません」(奥田氏)
飼育放棄の理由にはほかに“犬の問題行動”“犬の病気・認知症・高齢”などが挙げられるが、調査を行った’11年以降はいずれもその割合は減少傾向にある。しかし、“飼い主の死亡・病気・入院”だけは、やや増加傾向だという。