もしもに備える2つのこと

 将来、自分で身体を自由に動かせなくなって、愛犬・愛猫の排泄(はいせつ)物の世話ができず、水の交換や、ごはんをあげることもできなくなり、次第に弱っていく様子を、ただ見続けることしかできなくなったとしたら、それは、飼い主と動物双方にとって、どんなにつらいことだろう。

「自分の力で飼えなくなったとき、動物が幸せな第2の人生を送れるかどうかのカギは、次の新しい飼い主さんへ、いかにスムーズに犬や猫を託す準備をしておくかということにかかっています」(奥田氏)

 そこで、まず飼い主が実践したいことは、親族や近所のペット仲間など、安心してペットを託せる人を探しておくことだ。

「親戚付き合いも、近所付き合いも苦手で、今は疎遠という飼い主さんがいるかもしれませんが、“この子の幸せのために”と考えて、少しずつでも人間関係を構築しておきたいところです」(奥田氏)

 次に備えたいのは“お金”。【ペット信託】という仕組みを利用すれば、譲渡先での愛犬・愛猫の暮らしを支える費用を、遺産あるいは贈与という形でのこすことができる。あらかじめ自分で信頼できるペットの引き取り先と、お金の管理者(親しい友人や親族など)を選び、定めることができるので、スムーズに新しい引き取り手にペットを託すことができる。

 では、どのくらいのお金をのこしておけばいいのか。

 ペット信託に詳しい行政書士の亀ヶ谷澄子氏に教えてもらった。

「自分が手放したあとのペットの飼育費の概算は、“1年間でペットにかかった支出×犬・猫の残りの寿命”で求めます」

 ペット保険のアニコム損保保険株式会社の調査によると【病気やケガの治療費】【ワクチン・健康診断等の予防費】も含めたペットにかかる年間支出額は犬で約44万円、猫で約20万円。犬・猫の余命は概算になるが、“平均寿命-現在のペットの年齢”で求めるとする。例えば、犬が7歳のときに譲渡したとすると、44万円×(14.19-7)年=316.36万円が準備しておきたい金額となる。

「プラスアルファでかかるお金にも注意してください。例えばお散歩をするのが大変になってきた、認知症になってペットのお世話ができなくなったといった理由で、生前にペットが新しい飼い主さんの手に渡ったとします。そして、お金の管理者から、新しい飼い主さんにペットの世話代が支払われ始めました。すると、この世話代、すなわち“信託財産”に対して、“贈与税”がかかるので、新しいペットの飼い主さんには“贈与税”の支払い義務が生じます。当然、新しい飼い主さんに税金分を支払わせるわけにはいきませんから、この税金分も上乗せした分を託しておく必要があります」

 このほかにも、自分の死後にペットを託したいと考える場合には、ペットの世話代に対して“相続税”がかかるし、配偶者や子どもなどの相続人のために法律上、必ずのこしておかなければならない“遺留分(遺言があっても、最低これだけはもともとの法定相続人にのこしてあげなさいと法律上で認められている割合)”といったお金も信託財産(世話代などペットのために使うように託されたお金)とは別に備える必要がある。

 さらに、飼い主によっては“お金の管理者”に、管理に対する謝礼金として月1万~2万円を支払うケースもあるという。すると、追加で年間12万~24万円の準備が必要になる。また、“お金の管理者”と“新しいペットの飼い主”を監督する“信託監督人”を置くこともできるが、置くとなると、やはり月々の費用を支払うことになる(金額は契約による)ので、お金の備えは早いうちに始めたい。