たまにドラマや映画などで、地方のロケ地が“聖地”になるケースはあるものの、基本的にテレビ出演や大都市でのライブ活動が柱となるアイドルは、そう頻繁に地方出張ができるわけではありません。

 また、アーティストと違って、各地方の野外フェスなどに出演するような機会も、全くありませんでした。

エンタメが「日本の未来」を救う

 しかしその一方で、長年、第一線で活躍し続けるアイドルの彼らには、たくさんの”ファン”の存在があります。

 特に近年のファン文化は、好きなものに対して「大きな意味での支援」に尽力する傾向があります。それこそSMAPファンは、2011年の東日本大震災でグループが復興支援を呼びかけて以降、2018年の現在も変わらず災害募金に協力したり、被災地の特産品を購入する様子を、SNSで安定的に発信しています。

 行きつくところはそれぞれですが、その始まりは皆等しく、好きなものへの愛情であり、同じ時代を生きる他者やコミュニティへの敬意。

 そして、今までは被災地支援などに向けられてきたそのファン文化のパワーが、一歩進んで「地方の人口減少と少子高齢化」という社会問題に向けられようとしているのが、まさに今回の『新しい地図×夕張』の取り組みなのだと思います。

 実際に夕張市長との懇談以降、稲垣さん、草なぎさん、香取さんの3人は出演番組で積極的に夕張の名前を出すようになりました。それをファンもしっかり聞き逃さず、夕張へのふるさと納税を行ったり、特産品を購入して写真や情報をSNS上でシェアするようになっています。

 ちなみに、新しい地図と懇談した鈴木直道市長は、著書で理想とする政治の在り方についてこう話していたことがあります。

《どうしても“ひとりの犠牲”を出さなければいけない状況であるならば、残りの九九人の知恵を借りて、ひとりの犠牲も出さない解決策を考える――いまはそういう時代だと思う》(講談社『夕張再生市長 課題先進地で見た「人口減少ニッポン」を生き抜くヒント』)

 もはや、人口増加の特効薬は絶対にないといえる状況で、市民税や固定資産税といった各種税金の増額、水道料金の大幅値上げ、老朽化が進む市立診療所の建て替え先送り……。そういった、生き残りへの厳しい現実に耐えながら、それでも、それぞれの大切な故郷を守ろうと生きている人たち。

 遠い北海道の中に、ほんの少し早くやってきている地方衰退の現実。もし、東京の人気アイドルが「関係人口」の創出によって支えることができたならば、それは「日本の未来」をエンターテイメントの明るさが変えていくという、希望ある一例になるのだと思います。


乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版している他、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181