思えば、松尾さんは『朝までナメてれば』(※編集部注:討論番組『朝まで生テレビ』を松尾さんが1人で再現した作品)の頃から、この姿勢は変わらない。松尾さんのモノマネには、田原総一朗、大島渚、野坂昭如、西部邁といった権威への疑いがあった。権威の奥底にある俗悪さやずるさを表に浮び上がらせる作用があった。今回はそれが、作・演出の永井愛さんが作った架空の人物に対して発揮されたのだ。
飯塚のようななんともいや~らしい権力者は、メディアだけではなくいたるところにいる。現代社会の問題を描くうえでは、必要な役どころである。しかしそんなムカつく人物が物語の中でやっつけられるとは限らない。そんな時はせめて、疑いや批判のにじむ演技で、少しだけスカッとさせてほしい。松尾さんにはぜひとも今度「総理の親友である学園理事長」を演じてほしいものである。
そんな期待も込めて今回、松尾貴史さんには、「ムカスカッと演技賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。
ここからは少々ネタバレになってしまいますが、実は今回の舞台で松尾さんは政治家のモノマネも披露しています。SNS上ではこのモノマネに対し「度胸がある」などの声を散見し、ちょっと驚きました。僕が子どもの頃は、田中角栄や大平正芳といった総理のモノマネなんてテレビでタレントがやるのはもちろん、親戚のおじさんですらやっていましたから。
むしろ、政治家モノマネをやる人がほとんどいない今が不思議。滑舌の悪い早口で一方的にまくしたてるあの人や、ダミ声で暴言を吐きまくるあの人などネタの宝庫なのに。政治家なんて笑いのネタにされてなんぼだと思うんだけどなあ。松尾さんがこの手のネタを舞台だけではなく、テレビやラジオで披露できる日が来ることを心待ちにしております。
<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。