山笠が強い形で中洲や福岡を守っている
本作には多くの魅力的な人物が登場する。例えば、客引きの井島は、すでに製作が決まっている映画においてキーパーソンとなりうる人物なのだそうだ。
「福岡には、韓国や中国からの移民の人たちがたくさん住んでいるんです。物語のなかでは井島の国籍を明かしていませんが、僕はインドネシア人を想定して書きました。蓮司との関わりはもちろん、井島の存在は移民問題ともつながっていくんです」
物語の中では、折に触れてユネスコ無形文化遺産にも登録されている『博多祇園山笠』の場面が登場する。老舗料亭の経営者でもあり、山笠振興会の重鎮である高橋カエルも大きな存在感を放つ人物のひとりだろう。
「例えば、昔から中洲にお店を構えている花屋の大将とか、中洲に行くとカエルさんみたいな人がたくさんいます。見た目はちょっと怖いかもしれないけど、話すとそんなことはない。あれだけの風俗店があって、ヤクザもいてドンパチもあるけれど、でも、中洲に行くと人情に包まれるんです」
子どものころ福岡で暮らしていた時期があるという辻さんは、山笠によって中洲の治安が維持できているのだと分析する。
「山笠は祭りではなく神事なんです。特に福岡の男性は気が荒いのですが、それでも節度が保たれているのは、法律よりも強い意識が彼らの中にあるからだと思います。山笠が強い形で中洲や福岡を守っているんです」
本作には、辻さんの経験や感情が随所にしみ込んでいるという。
「この15年ほどはフランスで息子とふたりで生活しています。子どもを育てていると周りの人が応援してくれますし、特に息子の学校の親御さんたちにすごく支えられているんです。自分の子どもはもちろん他人の子どもにもやさしくすることの大切さやありがたさを身にしみて感じています」