「’15年の安保法成立が大きい」
生活に直結する重大事に検証を尽くすことなく、専門家の訴えを無視する形で、基地建設工事は進められている。
とりわけ問題なのが地下水だ。宮古島は飲料水のすべてを地下水に依存している。島全体が琉球石灰岩でできていて、土壌は浅く保水力がない。雨の半分が地下に流れ込み、地下水として保存されるという特殊な地形を持つ。
「ひとたび汚染されたら回復できないと言われています」
と清水さんは危惧(きぐ)する。そのため市は地下水保全条例を定めており、影響を及ぼすおそれがあれば、地下水審議会にかけなければならない。
その審議会の学術委員らが、市民主催のシンポジウムで驚くべき事態を暴露した。
「水質を汚染するおそれがあるとして配備反対とした結論を、市長は市民に隠し、改ざんまで迫っていたことが発覚したのです」(清水さん)
仮に地下水の流域外であったとしても影響を受けやすく、汚染リスクがあることから基地建設には適さないと学術委員は指摘する。活断層の密集地があり、大地震や津波のおそれもあるという。
懸念はまだある。弾薬庫の建設予定地である保良鉱山から民家までは、最短200メートルの距離しかない。
ミサイル基地建設に反対する『てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会』共同代表の楚南有香子さんは、弾薬庫の安全性について、実証実験を行っていないとの回答を防衛省から引き出した。
「火薬類一般のデータではなく、きちんと実証実験を行ってから安全だとする根拠を示すべきでしょう。オスプレイ配備についても、防衛省は、“恒常的に離着陸する予定はない”と含みのある言い方をしていた。では、緊急時や恒常的ではない頻度で運用されるおそれはあるのか。とうてい説明責任を果たしているとは言えません」(楚南さん)
基地配備が進むのは宮古島だけではない。7月17日には石垣島でも陸自部隊の受け入れを発表。【図】のような基地配備や軍備増強が先島諸島で進められている。一帯を「防人の島」に塗り替えていくかのようだ。
軍事ジャーナリストの前田哲男さんは、「’15年の安保法成立が大きい。日米の軍事一体化が進み、専守防衛の枠を逸脱するような軍拡に走っている」と指摘する。また、尖閣諸島が国有化されてからは、日本列島と南西諸島を防波堤にして中国を封じ込めるアメリカの軍事戦略『エア・シー・バトル構想』もあり、南方重視に変わったと話す。
「北朝鮮の脅威が使えなくなり、相対的に中国の脅威が前景に出てきていますが、領空侵犯や領海侵犯が増えているわけでもありません。脅威をあおるほど、むしろ緊張を高め危険にさらすことになります」(前田さん)
取材・文・撮影/本誌「基地と戦争」取材
※週刊女性2018年8月14日号(7月31日発売)より転載