その効果は五輪期間だけにとどまらない。
「首都圏では1日平均800万人が満員電車に揺られています。そのうち半分、400万人がテレワークを行うことができたら、人々はもっとストレスなく働けるのではないでしょうか。在宅勤務で通勤に必要なくなった時間を、自分の趣味などにあてる。もし400万人が1日に500〜1000円使えば、さまざまな場所で20億から40億円のお金が回ることになります」
単に混雑を緩和させるのではなく、五輪をきっかけに「過酷な働き方をやわらげる政策を行ってほしい」と田口教授は言う。
最寄り駅、近隣駅からの道のりに工夫を
一方、後者の場合、最寄り駅からのアクセス分散がポイントになる。
「例えば、新国立競技場の最寄り駅は千駄ヶ谷駅ですが、国立競技場駅、北参道駅、信濃町駅からも徒歩約10分以内でアクセスが可能。少し遠くなりますが新宿駅も。最寄り駅に一極集中させるのではなく、近隣駅に集客を分散させることで、会場周辺の混雑を防ぐしかない」
とはいえ、炎天下に歩き続けると体力の消耗は避けられず高齢者や子どもにとっては大きな打撃。最寄り駅を利用したい人も少なくないはず。
「新国立競技場までの道順にどういった仕掛けができるかが重要です。例えば、新宿駅からは徒歩30分ほどかかりますが、道すがら五輪関連のイベントを行い、限定グッズなどを売るお店が数多く並んでいたらどうでしょう?
さらには、新宿御苑を開放、園内にゲートを設けてその入場口で荷物チェックをすますことができれば、最寄り駅を使わず、新宿から徒歩での移動を選ぶ人は増えると考えます」
大混雑のなか、会場口で荷物チェックのため立ち往生するより、五輪に沸く街中で観光をしながら、比較的すいている場所で荷物チェックをすませ会場に入る……。歩いたほうが五輪気分を満喫できるうえ、混雑緩和になりお金まで落ちる。そんなことがアイデア次第で可能だ。
「混雑を逆手にとって、東京や日本のPRをできるよう工夫すればいい。国内外から多くの観光客が訪れるのですから、単なる遠回りではなく、会場までの道順にいろいろな日本の表情を知ってもらい、観光客が行きたくなるような機会をつくる。そういった柔軟な発想があってもいいのでは?」
五輪開催まで2年、されど2年。膨らみ続ける予算をセーブするためにも残された時間のなかでいかに知恵を絞り汗をかくかが試されている。
〈識者PROFILE〉
田口東さん
中央大学理工学部情報工学科教授。工学博士。数理モデルを使って実社会の課題を計算する専門家として、通勤電車の遅延計算モデルなどを構築。首都圏交通ネットワークのスペシャリストとして現在、多方面で活躍中