大好きだからこそ親には言えない
過酷ないじめや、それを端緒とする子どもの自殺という悲惨なニュースを聞くたびに、“なぜ親に話さないのか?”と疑問を抱く人もいるだろう。
「いじめられた子に、なぜ話さなかったのかを聞いてみると、親に心配をかけたくなかったと答える子が少なくありません。決して親が悩みを聞いてくれないと思っているわけではなく、大好きだからこそ心配をかけたくないということです。それでも子どもたちは何らかの小さなSOSは発しています。最近、イライラしている、朝、おなかが痛いと言う……。本当に小さなことですが、“あれ?”という親の勘がいじめ発覚のきっかけになることもあるのです。そのためにも、“あなたの助けになりたいと思っている”と伝え続けることが大切です。共働きで忙しくても、1日5分でもいいので、正面から子どもの目を見て、話を聞く時間を作ることです」
いまの子どもたちのいじめは、ひと昔前の不良グループやガキ大将タイプのいじめっ子が加害者というシンプルなものではなくなっている。さらにスマホの普及により、親には見えない場所にその芽があちこちに隠れているという。
「成績のよい子などが加害者になることもあり、そうした場合は発覚させない巧妙さも見受けられます。また、いじめには加害者、被害者、傍観者の立場が存在し、これらは小さな理由、あるいは理由もなしに入れ変わる。加害者だった子が被害者や傍観者になったり、その逆もあります」
つまり、いつ誰が加害者、被害者、傍観者になってもおかしくない危うい状況だということだ。しかし、子どもたちの小さないざこざをすべてなくすことは難しい。だからこそ、いじめの芽が大きくなる前に摘み取ることが重要になる。
「まずは、人が嫌がることはしないという善悪を家庭や学校できちんと教えることです。そのうえで、いじめをタブー視せずに日常にいじめはあるものとして、子どもたちにどう教えていくのか、教師、親を含めた大人の姿勢・対応が問われていると思います」
著者の素顔
ディレクターとして番組台本も手がけた岸田さん。そのため執筆については「主観を排除して事実を積み上げ、視聴者に判断してもらうというテレビ報道のスタイルが書籍として通用するのか」悩んだという。しかし、担当編集者は「こちらが手を入れる部分がほとんどないほど優秀な書き手」と太鼓判。優しい語り口の彼女だが、報道の仕事で培われた豊富な知識とボキャブラリー、そして、何より子どもたちを救いたいという強い思いが印象に残る素敵な女性だった。
<PROFILE>
きしだ・ゆきこ◎早稲田大学法学部卒業、東京大学大学院情報学環教育部修了後、日本テレビに入社。報道局社会部の文部省担当記者、政治部自民党担当記者を務める。その後、ディレクターとして『真相報道バンキシャ!』『NEWS ZERO』の立ち上げに関わる。2004年より報道キャスターとして『情報ライブ ミヤネ屋』など複数の情報番組のニュースコーナーを担当。日本テレビの子育て支援プロジェクト「ママモコモ」でも活動する。
『いじめで死なせない 子どもの命を救う大人の気づきと言葉』
岸田雪子=著 新潮社 1512円
<取材・文/松岡理恵>