'13年6月、日本体操協会はこの『暴力行為根絶宣言』を受けて、罰則に《永久追放》を新たに設け、さらに問題が発生しない環境づくりなどの指針を示していた。

 そんな中、'18年9月、速見佑斗コーチが宮川紗江選手への暴力行為で処分された。コーチは謝罪会見で、「自分も暴力の指導を受けていたが、それに感謝の気持ちがあった」と発言した。

「完全になくなるかっていうと、それはなかなか納得していない人も多いから、時間はかかるんじゃないかなと改めて思いました」

 為末が身を置いた陸上界でも問題が表面化した。9月11日、日体大の渡辺正昭駅伝監督による選手への暴力・パワハラが報告され、監督は解任。

「暴言やパワハラみたいなものであれば、ほかにも出てくるんじゃないかと。でも、私個人としては“あの人は昔、こういうことをしてたでしょ”と、過去のことをほじくりだすのはよくないと思っています。現在進行形の暴力・パワハラに関しては、どんどんオープンにしていけばいい。

 しばらくは“だったら選手にどういう指導をすればいいの!?”という不満を持つ人も出てくると思います。でも、これって一般企業が当初、パワハラやセクハラを撲滅対象にしたときに“だったら社員とどうやってコミュニケーションとればいいんだよ!?”とブツブツ言っていたのと同じですよね。スポーツ界も時がたてば、それなりになじんでくると思うんです

このタイミングで問題と向き合うのはいいこと

 国民が待ち望む東京五輪まであと2年を切った今、影響はないのだろうか?

「影響が出てしまう可能性はあるかと思います。私たちはコーチに“1年を切ったら技術は変えるな”と、よく言われていました。よりよい技術であったとしても慣れるまではパフォーマンスが落ちてしまうと。仮にいい方向の指導だったとしても1年では選手になじまない可能性もあるんです。だから“今の体制を変えないほうがいい”という考え方もあります。

 一方で、このタイミングだからこそ世の中が取り上げてくれるという考え方もあります。これを機に、スポーツ界の課題をすべて解決すべきと思っている人も多い。何をもってよい結果になったのかというのが微妙ですけど私もこのタイミングでいろいろ出てくるのはいいことなのでは、と思っています

 こういった問題は海外、特にアメリカが進んでいるともいわれるが、

「そうでもありません。ちょっと前までアメリカにも体罰をするコーチはいたので、日本は遅れているというわけではないんです。かといって、何から何までがクリーンで、コーチが選手に敬語で話すような世界を目指すのは、僕はおかしいと思います。

 “気合入れて走れ!”というかけ声は、トップを目指す選手には重要だと思うので、適したバランスを見つけていくことが大事ですね

 日本のスポーツ界は、膿を出し切って生まれ変わることができるのだろうか。東京五輪で、選手たちが輝かしいプレーを見せてメダルを獲得するためにもーー。