日馬富士とのコラボ作品に

 日馬富士が絵に添えた言葉。「なるほど!」と膝を打つよう。稽古についての言葉など、「そういうものなのか!」と気づかされる。

 横綱の言葉は重い。では、橋本さん、今回の120枚の中で、ご自身で一番好きなのは、稽古風景のものですか?

「いえ、私が特に思い入れあるのは、日馬富士が横綱になった最初の綱打ち(注:土俵入りするときに締める綱を作る作業、及びそのお祝い)のときのものなんです。

 綱を締めてもらって、大きな鏡の前で、まるで女の子が初めてドレスを着たときのように、後ろを向いて鏡をのぞきこみ、ちょこっとお尻を上げてね。微笑むというより、内心の嬉しさが、にじみ出る顔をした場面を描いたものです。それを彼が選んでくれたのが嬉しいです」

 日馬富士のこと、深いところまで理解してるんですねぇ、と言ったら、「そうよ、そう! なんてね。全然違うだろうけど」と笑う橋本さん。

 これまで描いた日馬富士の絵は1200枚! 1枚描くのに最低でも1~2日、土俵入りの絵は1週間もかかったそうで、かけた総時間は計り知れない。

 自費出版で3冊の画集も作ってきた。それを日馬富士に近しい人が「これで一緒に本を作らないか?」と見せたところ「自分についての本なんて……」と、見る前はあまり乗り気ではなかった日馬富士が「やりましょう!」と即断。

 相撲道についても大いに語り(巻末に掲載されている)、この画文集を橋本さんと一緒に作り上げている。

 日馬富士は「この中に僕の相撲人生がすべて詰まっています」と言ってくれたそう。ファンの熱い、熱い想いがここに結実したのだ。

『横綱日馬富士 相撲道』日馬富士公平(著)、橋本委久子(著・イラスト)藤原書店 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの購入ページにジャンプします
【写真】橋本さんが色鉛筆で描いた、美しく力強い日馬富士の姿

 ところで、相撲ファンには知られているように、日馬富士自身も絵を描く。彼は油絵が得意。その1枚がこの画文集の1ページ目に掲載されている。富士山を描いたものだ。

「日馬富士はまさに富士山のような人。富士山は今も活火山でしょう? まだマグマを蓄えていて、すそ野は広く、想いも手も遠くまで伸ばす。富士山は彼そのものです。

 この本は、日本でも図書館に置いてほしい、子どもたちに見てほしいと言ってます。彼の願いは相撲を通じて社会を学んでほしいということなんです」

 なお、この画文集は引退断髪披露大相撲の会場でも販売される。日馬富士の直筆サインが入ったものもあるそうだ。


文/和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。