「私は母親失格です」
物心ついたころには父のいない母子家庭で、母親から“お前はあの男に似ていてかわいくない”と邪険にされた。6畳ひと間のアパートで母と妹と3人暮らし。次の日の食べ物にも困ることも。
中学1年のときに母親が再婚し、暮らし向きがよくなった。自分の部屋もでき、高校にも進学。大学へは奨学金とアルバイト代で通った。
25歳で出会った元夫は既婚者だったが、離婚を待って'10年9月に結婚。翌月に長男が生まれた。雅美さん、30歳のときだった。
「結婚をしたら温かい家庭ができるんだと思い込んでいました。夫は稼ぎもよく何不自由のない生活を与えてくれましたが、幼い子どもと3人で孤独でした。
誰かに話を聞いてもらい共感してほしかったんです。子どもは言うことを聞かず思いどおりにいかない。怒鳴ってしまったことも。私も母と同じことをしていました」
現在は、得意の英語を生かし翻訳などで生計を立てる。
「この5年間、1日も子どものことを考えなかった日はありません。私は母親失格ですし、正直、もう会えるとは思っていません。ただお母さんは、あなたたちのことを愛していると、ただそれだけを伝えたいんです」
A5サイズのノートには、子どもたちに向けて、言葉をつづる。そこには《なにがすきで、なにがとくいで、なにをがっこうでならったのかしりたいよ……》など、会えない切なさが込められている。
10月25日は長男の誕生日。8歳になる。プレゼントを贈ることは許されているが、
「何が好きなのかわからなくて……。渡しているかどうかもわかりません」
母と子どもの距離を、時間がさらに広げていく。