「まさしく貧困ビジネスだね」
一方、生活保護受給者は増えている。なぜ、荒井さんは生活保護を受けないのか?
「区役所職員などがホームレスに声をかけて、宿に押し込めて生活保護を受けさせているのは知っています。区と宿がつるんでて、ここ5年ほどはいっそう顕著になってきた。まさしく五輪に向けての浄化だよね。
でも、生活保護は金はそこそこあるけど、門限とか、職を探せとか、いろいろとうるさい。自由がないのよ。また、NPO法人などがやっている宿で3食つきのはめちゃくちゃ高くて、月に1万~2万円しか手元に残らない。まさしく貧困ビジネスだね」
荒井さんは1度、20代後半で結婚。30代半ばで奥さんに愛想をつかされて離婚し、幼いひとり娘とも別れた。
「それ以来、1度も会わせてくれないし、連絡先さえわからない状態。もう30歳を越えているはずだけど……」
と目を潤ませた。
荒井さんら玉姫公園に住むホームレスについて、山谷の宿で生活保護を受けている70代の男性は、
「食事をおごってくれたり、相談に乗ってくれたり、とても優しいし、自分たちがこの労働者の町の伝統を守るというような肝っ玉も据わっている。あの人たちは、俺らとは人格がちょっと違いますよ」
と、べた褒めする。
2年後の五輪時、荒井さんはどうしているかと聞いた。
「2年後も将来も、ずっとこのままでいい。仕事も少なくなっているし、ホームレスも減ったけど、いまでもここは労働者の聖地。日本社会のゆがみ、ひずみ、行政の悪い部分の縮図みたいなところだから、その根本が変わらない限り絶対になくならない」
と荒井さんは主張した。