苦しい体験を経たから人を思いやれる
本書に登場する10人は、親から虐待されたりネグレクトされたりして育った。
「だから、私と同じようにどこか“普通”の基準が異なるんですよね。朗読詩人の成宮アイコさんは、祖父から暴力を受けるのが日常で、アニメの『ちびまる子ちゃん』がフィクションだとずっと思っていたそうです。こんな家族があるわけないって」
ほかにも、会社員の石山良一さん(仮名)の母はパチンコ依存症で、石山さんも姉もさんざん苦しめられる。にもかかわらず、ふとしたきっかけで自分もパチンコにハマってしまう。文筆家のアルテイシアさんは、いまの夫に出会うまで、とっかえひっかえ男と付き合った。
「なにかメーターが壊れているんでしょうね。世間の普通という物差しを持っていないので、おかしな行動に走ってしまうんです」
漫画化するにあたり、優しい絵を描くことを心がけたと菊池さんは言う。
「暴力的な場面も激しくしないようにしました。直接的な絵を描くのは、私自身もつらいですし。あと、読者に近い存在も必要かと思い、編集者のハタノさんに登場してもらいました」
「毒親」に苦しめられた過去を持つ彼らは、いまそれぞれの世界で頑張っている。
「医療記者の朽木誠一郎さんは、人のためになろうとしています。自分の体験が誰かのためになるのならと、取材を受けてくれました。話したことで客観的に自分が見られるようになったと言ってくれた人もいます。私も“子どもをもちたくない”と思うことに後ろめたさを感じていましたが、取材してみて、それでいいんだと思うようになりました」