会話は芝居や映画のことばかり。その多くは、冒頭の喫茶店で語られたという。角替さんは、過去の雑誌のインタビューでこう語っている。

《お父さんの仕事が午後からだったりすると、子どもを保育園に預けた後に喫茶店に行くんです。2人ともコーヒーを頼んで、お砂糖を1杯ずつ入れて。後は、何しゃべってるんでしょうね。演劇の話もしますし、仕事の話もします》

 夫を妻が陰から支えるのではなく、それぞれの仕事を尊重し、支え合ってきた。

「そういう夫婦だったから、角替さんは明さんのことを夫婦というより、戦友であり親友だって、よく話していましたね。だから家族に対しても不満はなくて“元気で生きて

夫婦で通っていた地元のカフェ。角替さんの趣味は喫茶店めぐりだった
夫婦で通っていた地元のカフェ。角替さんの趣味は喫茶店めぐりだった
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くれればそれで幸せ”と思っていたんだと思います」(角替さんの知人)

 そんな両親の影響から、長女は映画会社に、佑と時生も俳優の道へ。角替さんも舞台だけではなく、ドラマや映画に多数出演し、'16年にはシニア向けの演劇ワークショップ『和枝さんのお芝居入門』を主催した。

「和枝さんが“45歳以上の演劇をやりたい人で、地元で演劇をしたい”って言ったら、45人くらい集まって。そのメンバーは和枝さんも含めて、すごく仲よしでしたよ。みんなで日曜日に集まっては、夜中の1~2時まで飲んでいました」(佐々木さん)

 そんな最中、病魔が角替さんを襲った。昨年、人間ドックでがんが見つかったのだ。しかし、彼女はそのことを周囲に明かすことはなかった。

「がんであることは、ご家族以外はほとんど知らなかったんじゃないでしょうか。病気であることを知られることで、周りから気を遣われたり、普段どおりの家族の雰囲気が変わってしまうことが嫌だったんじゃないかなと思います」(前出・角替さんの知人)

 10月27日の昼、最愛の妻を看取った柄本は、ひとり冒頭の喫茶店を訪れた。いつも夫婦一緒に頼んだブレンドコーヒーを飲み、何も言わずに店を後にしたという。