子どもの貧困対策は学校中心。国が示す方針には、高等教育進学時の経済支援と絡めて「学ぶ意欲」「能力」という言葉がちりばめられている。
「“学ぶ意欲と能力がある”子どもが対象となっています。しかし、経済的に厳しい環境下では意欲がそがれたり、自尊感情が低下して、他者への基本的な信頼感が欠けていたりすることも珍しくない。意欲を持てるように、学校が子どものしんどさに、もっと受容的に向き合う必要がある」
懸念される沖縄の子どもの貧困率の高さ
山野教授は'17年の「沖縄県子どもの貧困実態調査」にも関わっている。沖縄の子どもの貧困率は29・9%という衝撃的な数字だった。
「子どもの貧困率は全国平均で16・3%('14年発表)。沖縄はもっと高いだろうと思われていましたが、県独自に調査すると驚きの数字でした」
同時にアンケート調査も実施。“過去1年間で経済的理由により家族が必要とする食料や衣料を買えないことがあったか”の質問に対し、「よく」「ときどき」「まれ」を含めると、中学2年生全体で29・4%が該当していた。
「貧困世帯に限れば49・7%で、約半数という結果に。沖縄では、隣近所で助け合う“ゆいまーる”が知られていますが、近所で困っている人がいても気がつかない時代になっている。これは沖縄だけの現象ではありません」
また、子どもの貧困対策の一環として、消費税が10%になる来年10月、幼児教育と保育が無償化される。幼稚園の預かり保育や自治体の認証保育所、無認可保育、ベビーホテル、ベビーシッターも一定額を限度に対象とする方向だ。
「待機児童の解消が先ではないかという意見もある。現行制度では、保育所に子どもを入所させる際に、フルタイムの人が優先される仕組み。つまり、非正規の所得が低い人の子どもは、待機児が多いほど後回しにされやすいのですが、解消されていません」
一方、保育の質について安倍政権はあまり言及しない。
「保育の質を考えるとき、日本では職員の研修が大切とされるが、世界的に見ると職員の資格が重視される。しかし日本では、無資格の人も働いているのが現状。特に小規模保育の場合、保育士は半分でいいとされています。保育事故が起きる心配があります」
子どもの利益を最優先に取り組むべきだ。
取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)
《PROFILE》
山野良一さん ◎沖縄大学教授。北海道大学卒業後、児童福祉司として神奈川県の児童相談所に勤務。米ワシントン大学留学などを経て現職。『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書)ほか著書多数