裁量労働制で過労死の恐れも
高プロと同様のリスクをはらむのが「裁量労働制の拡大」。2月に不適切データの発覚で国会提出は見送られたが、9月には検討会を開始、息を吹き返そうとしている。
裁量労働制とは、あらかじめ決められた時間を働いたとみなし、長く働いても短く切り上げても、一定の給料が支払われる仕組みだ。
「管理職などに限られていた対象を法人営業などの職種にも拡大しようとするもの。高プロと違い、働く時間は自分で決められますが、仕事量についての裁量権はない。会社から仕事を大量に出されると、終わらせるために自発的に長時間働き、サービス残業をして、へたをすれば過労死する危険があります」
3月に裁量労働制を廃止した三菱電機では、'14年~'17年に労災認定された社員5人のうち、3人に裁量労働制が適用され、過労自殺した社員も含まれていたことが明らかになっている。
「長時間労働につながる働き方改革のもとでは、子どもや家族がいる女性の多くは働けない。仕事と家庭生活の両立は全く考えられていません。すると、ますます女性たちはパートや派遣社員などの非正規に流れていく。
正社員で過労死のリスクにさらされつつ長時間働いて、男性に近い賃金を得る女性と、非正規で不安定な働き方で低賃金な女性という二極化が進むのでは? 今後、女性間の格差がさらに開いていくと思います」
総務省の労働力調査によれば、'17年に非正規として働く人は、前年比13万人増の2036万人。そのうち6割を女性が占める。安倍首相が「非正規という言葉をこの国から一掃する」としてぶちあげた「同一労働同一賃金」に期待をかけたくなるが、
「非正規の場合、仕事内容や成果で給料が支払われるのではなく、たいていが時間給。長く勤めれば賃金が上がる仕組みでもない。同一労働同一賃金は、賃金や転勤の有無が社員と同じかどうかが問われるため、ほとんどの非正規は対象にならないのです」
どう生き抜けばいいのか?
「相談先を持っておくこと。労働団体や弁護士によるホットラインを利用するのもいい。知識や情報を得られて、ネットワークづくりができます」
《PRIFILE》
竹信三恵子さん ◎ジャーナリスト。1976年、朝日新聞社に入社。編集委員兼論説委員などを経て2011年より和光大学教授。専門は労働社会学、ジェンダー研究。『正社員消滅』(朝日新書)ほか著書多数