もちろん、労働環境に配慮した経営者もいる。ただ、「家族同然」という扱いにひそむ問題もある。
「技能実習生を“うちの子”と呼ぶ経営者がいます。“家族同然。社長と呼ばせない”と言ったりもする。これは労働者であることを覆い隠す言葉。家族だったら劣悪な環境で働かせますかと言いたい」
外国人を受け入れる法改正をすべき
外国人労働者が増えることは、外国人の居住者も増えることを意味する。在留外国人統計によると、外国籍の住民は250万人を超えた。京都府の人口と、ほぼ同じだ。
「安倍政権のコアな支持層は外国人を嫌悪する人たちです。外国人を増やすことは、支持基盤の考えとは矛盾する。それでも安倍政権が動くのは、経済界の要請があるから。人手不足と、安価で使い勝手のいい労働者が欲しいのでしょうが、手放しでは喜べない。きちんと外国人を受け入れるための法整備をすべきです」
外国人が増えることで治安悪化を心配する声が絶えない。しかし警察庁の統計では、一般刑法犯検挙に占める来日外国人(観光客も含む)の割合は3%を超えたことがない。
「外国人犯罪が急増したというデータはありません。オーバーステイ(不法滞在)自体を犯罪とするのなら増えますが、オーバーステイの外国人の犯罪率が高いというデータもない。オーバーステイをするのは稼ぐためで、最大の障壁は逮捕されること。ですから、彼らの多くは目立たないように生きています。信号を守るし、立ち小便もしない」
日本では近年、ヘイトスピーチが社会問題となっている。'16年に、外国人に対する不当な差別の解消を目指す法律ができたが、課題は多い。
「日本人は外国人嫌悪が消えていない。特にアジア系に対する差別や偏見はものすごい。“外国人なんだから一定の不利益があってもしかたがない”と思っているのではないか。国籍に関係なく等しく人権は守られるべきで、そのためには教育や啓蒙が必要。外国人が住みやすい地域は日本人にとっても住みやすく、寛容な社会だと思います」
取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)
《PROFILE》
安田浩一さん ◎1964年生まれ。ジャーナリスト。週刊誌記者などを経てフリーに。事件・社会問題を中心に執筆。『差別と貧困の外国人労働者』(光文社)、『「右翼」の戦後史』(講談社)ほか著書多数