病院で検査しても原因がわからない

 ちょうどそのころ、恵子さんの母が体調を崩した。毎日、母の面倒を見ていたので、息子のことを深く考える時間も気持ちのゆとりもなかった。息子は大人なのだから、自分の道は自分で切り開くだろうと親は思うものだ。

「ただ、いつまでたっても働かないので、だんだん心配になってきて、顔を見るたびに“どうして勤めないの” “早く仕事探してよね”とばかり言っていましたね

 その後、ときどき数日間のアルバイトをしていた時期もあったようだ。

「夫が警備関係の仕事をしていたつてで、24時間勤務のシフト制の仕事を紹介してもらったんです。息子が34歳くらいのときでした。本人もやると言って働き始めたんですが、3か月でクビになりました。居眠りが多すぎるというのが理由。4年も働いていない身には24時間勤務はつらかったのかもしれません」

 本人が居眠りのことを気にして病院へ連れていってほしいと言いだした。検査をしたが、どこかが悪いわけではなかったという。翔太さんはまた気を取り直して就職活動をし、今度は流通関係の仕事についた。だが些細(ささい)なことで同僚とケンカになり、1年ともたずに辞めさせられた。

仕事のやり方で言い争いになったようです。話を聞いてみれば身びいきかもしれないけど息子のほうが正しい。だけど会社側は、ことを荒立てたのは息子だからケンカするような人間は雇えないという。一本気なんですよね。それでまた辞めて。私は息子がどうも世渡り下手なのが気になってしかたがなくて、若者サポートセンターとかで相談に乗ってもらえばいいんじゃないかと電話で予約までしたんです。それでも、息子は“わかった”と返事をしながら行こうとしない」

 そうなってもなお、彼女は息子を「ひきこもり」とは認識しなかった。転職を繰り返したり、人間関係でつまずくことは珍しいことではないのだから。