「必死に演じることで届けばいいなと思いました」
俳優デビュー作で、数々の新人賞を受賞した映画『ホットロード』。この作品から5年ぶりとなる待望の恋愛作品に挑戦した登坂広臣。三代目 J SOUL BROTHERSのボーカルであり、’17年からは本格的なソロ活動もスタートさせたアーティストの顔ではない、俳優としての新たな姿を見せてくれるのが『雪の華』。
「企画の段階から声をかけていただいていたんです。3年くらい前かな」
すぐには返事ができなかったと言う。それは、『ホットロード』を経験し、生半可な気持ちでは引き受けられない、相当な覚悟が必要だと感じたから。気持ちが変わったのは、
「プロデューサーさんの熱意に打たれたというか。そこまで僕にという、その方の気持ちに応えたいと思って引き受けさせていただきました」
残念ながら、プロデューサーは作品の完成を見ずに永眠。きっと天国から大きな拍手を送っていることだろう。中島美嘉が歌い、国境や世代を超え愛される名曲『雪の華』(’03年)。このラブソングにインスパイアされ生まれた作品の脚本を手がけるのは朝ドラ『ひよっこ』や映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』を生み出した岡田惠和。
余命宣告され、絶望しながら歩く美雪(中条あやみ)は、ひったくりに遭う。彼女のバッグを取り戻し「声出していけよ、声!」と前向きな気持ちにさせてくれたのが登坂の演じる悠輔。半年後、偶然、彼の働いている店の危機を知った美雪は勇気をふりしぼり「私が出します、100万円。そのかわり、1か月、私の恋人になってください」と提案する。
一見、ぶっきらぼうだが、まっすぐで温かい悠輔は、自分とそうかけ離れていないと感じたと言う。ガラス工芸家を目指しながらカフェで働き、妹弟の面倒を見ている、ごくごく普通の青年を“無”になって演じた。
「この作品に向かった姿勢と同じで、ライブで歌っているときも、無になっているというか、雑念のない状態になるんです。とにかく一生懸命、伝える。不細工だろうが、どう見えていようがかまわない、必死に演じることで届けばいいなと思いました」
“無になれるようになった”、それにはある出来事があったという。
「アーティストとしてデビューしたころ、すごくいろんなことを考えてステージに立っていました。あるとき“うまく歌おうとしている。歌を、歌詞を届ける以外のものがたくさんある気がする”と指摘されたことがあって。それから、カッコつけるということを捨て、いま生まれた言葉のように歌ってみたら、“(これまでと)全然違う”と言ってもらえた。こういうことなんだと思いました。
どんなに大きなステージに立っても、いつも、このことを思い出します。今回の作品に対しても同じでした。そうじゃないと受けられないくらい大きなものなので。でも、ほかでは、カッコつけているんですけどね(笑)」
笑顔を見せる。いつも冷静で、俯瞰で自分を見ている印象のある登坂だが、
「自分で思ったことはないですが、そう言われてみれば……。歌に関して言えば、4万、5万人の方が来てくださるドームで公演をしていても、ひとりに向かって歌っている感覚になるときがある。
それが今回の作品も一緒で、もちろんカメラは回っているし、録音部さん、照明部さんがいて、いろんな人がいるけれど、ただ、そこにいる美雪と向き合っているだけというか。美雪しか見えない。だから、カッコつけるとか、どうでもよくなるのかな」