映画配給会社社員は言う。

「そういう声が増えてきて、確かに流れは変わってきています。しかし、上場企業のコンプライアンスへの考え方は変わっていないので、大手企業が参画した作品はまだ厳しい点が残っています。しかし、今回は薬物犯罪ということで、明確な被害者が存在しない、ということが公開につながったんじゃないでしょうか」

 たしかに、映画『空中庭園』('05年)のときも、監督が覚せい剤取締法違反で公開直前に逮捕されたが、公開規模を縮小して劇場公開にこぎつけたという事例がある。

 それに対し、性犯罪がらみの騒動を起こした新井浩文被告や高畑裕太(のちに不起訴)のケースは明らかに被害者が存在している。

 被害者の心情を考えると、公開を控えなければならないのだろう。年内に公開される予定だった新井の出演作『善悪の屑』は公開中止が決定している。

 しかし、どうも線引きが曖昧だ。

 瀧容疑者が所属する音楽ユニット『電気グルーヴ』の楽曲CDの販売や配信も停止された。これには、あの坂本龍一も「何のための自粛ですか(中略)音楽に罪はない」と発言し、賛同の声があがっている。

 過去を顧みれば槇原敬之も'99年に覚せい剤取締法違反の罪で逮捕され、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。しかし、彼が作詞・作曲したSMAPの『世界に一つだけの花』はその執行猶予中にリリースされ、現在も国民的楽曲として親しまれている。そのような例もあるのだが──。

 映画と音楽は一概に同じ扱いはできないが、はたして“自粛の線引き”はどこにあるのだろうか。これだけコンプライアンスがうたわれる時代、昔とくらべて芸能界を取り巻く状況は大きく変わってきている。

<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。