こうした史実について、自民党内では「当時とは政治体制や政権を取り巻く状況が違い、全く参考にはならない」(細田派幹部)との指摘が多い。

 昨年9月に自民党総裁3選を果たした首相の任期はまだ2年半も残っており、党内では「4選論」もささやかれるような安倍一強も続いている。もちろん、国政選挙で惨敗すれば政権危機は避けられないが、政権交代を目指すはずの野党がバラバラで、選挙共闘協議も進まない現状から、「参院選でも自民党は一定の議席を確保して首相の続投は確実」(自民幹部)というのが政界の常識だ。

 また、今回の改元からちょうど5カ月後の10月1日には、政府が消費税を10%に引き上げる予定だ。「景気後退はそれ以降で、しかも、2020年夏の東京五輪までは大きな落ち込みはないはず」(経済界首脳)との見方が多く、増税がすぐ退陣につながることも考えにくい。

 最大の懸念材料とされるのは首相の体調だが、これも3月末の人間ドックでの定期健診も踏まえ、「首相の体調は就任以来最高」(側近)とされ、「12年前のような急激な体調悪化がない限り、体調不良による退陣もあり得ない」(自民幹部)というのが大方の見方だ。

安倍長期政権に欠ける政治的遺産

 とすれば、安倍首相が改元の呪いを克服するのは難しくはないようにみえる。皇位継承が現実化した時点から、安倍首相が「平成のその先の新時代をリードしたい」と繰り返してきたのも、史上最長記録を更新する超長期政権への自信と余裕の表れでもある。

 ただ、記録的な長期政権に欠けているのが歴史に残る「レガシー(政治的遺産)」だ。政権の大看板のアベノミクスは「永遠の道半ば」(自民長老)などと揶揄され、首相が悲願とする自衛隊の存在を明記するための憲法改正も在任中の実現は困難視されている。

 さらに、得意の外交でも、ロシア側の強い姿勢もあって、北方領土問題を含めた日ロ平和条約交渉の長期化は避けられない。首相が任期中の決着を公約してきた北朝鮮の日本人拉致問題も、解決の糸口すら見つけられないのが現状だ。

 2021年9月の自民党総裁の任期満了までこの状況が変えられなければ、史上最長政権となっても安倍政権の政治的レガシーは作れず、東京五輪と改元だけが歴史に残ることになる。さらに、2度にわたる消費税増税で景気が悪化すればこちらは「負のレガシー」になる。もし首相が「レガシー無き史上最長政権」を余儀なくされることになれば、後世にはそのことが「改元の呪い」と喧伝されることにもなりかねない。


泉 宏(いずみ ひろし)◎政治ジャーナリスト 1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。