ドイツの商店では、それぞれの店員の仕事が厳密に決まっており、与えられた仕事以外はやらない。例えば、パン屋ではこんな光景をよく見かける。ドイツのパン屋ではショーウィンドウや奥の棚にパンが並べられている。このため客は店員に欲しいパンを注文し、包んでもらわなくてはならない。日本のようなセルフサービスのパン屋は少数派である。

 あるパン屋でカウンターの後ろに2人の店員が立っていた。カウンターの前には5~6人の客が列を作って自分の順番がくるのを待っている。2人のうち、1人しか客に対応しないので、時間がかかる。彼はパンを売るだけでなく、店内で食事をする客のためにコーヒーも作らなくてはならないので大忙しだ。

 しかし、もう1人の店員は彼を手伝わずに、のんびりとショーウィンドウのガラスを拭いている。

 このため、1人の客が横から割り込んできて、ガラスを拭いている店員にパンを注文しようとしたところ、その店員は「私の同僚に注文してください」とにべもなく断った。客は「チッ」と舌打ちして、しぶしぶ並んでいる客の列の後ろについた。ドイツではしばしば目にする光景だ。

お客様は神様ではない

 このエピソードだけでも、ドイツに日本のような顧客中心主義がないことがよくわかる。日本の店員ならば、店が混んでいたら客の待ち時間を少しでも短くするために、ショーウィンドウのガラスなど拭いていないで、客の注文を取るはずだ。顧客対応の基本中の基本である。

 ところが日本の常識は、ドイツでは通用しない。この国の店や企業では、職務分掌が厳しく決められており、いくら忙しいときでも、ほかの人の仕事を取ることは許されない。たとえ客から頼まれても、順番を待つ客が長蛇の列を作っていても、店の内部の決まりを破ってはならない。つまり日本に比べると融通が利かず、柔軟性に欠けるのだ。

 お客様は神様ではない。「パンを買いたかったら、わが店の決まりを守って辛抱強く待て」というわけだ。

 ドイツには「閉店法」という法律があり、店を開ける時間が規制されている。この法律によると日曜日と祝日の店の営業は原則として禁止されている。午後8時から翌朝6時までは店を開いてはならない。例外はガソリンスタンド、薬局、空港、大きな駅の売店などだ。