私の想像ですが経営陣はここにきてまだ「事実について争いたい」と考えているのかもしれません。山口真帆さんが主張する事実とは別に、新潟の運営サイド、他のメンバーたちから耳に入ってくる違う事実がある。藪の中をあきらかにしていかなければ正しい組織運営はできないと正直に考えているのではないでしょうか。
ある意味で善良なひとたちなのかもしれませんし、10年前ならそういう経営もありだったのだと思います。またこれがブラック企業として問題になっているような業態の組織であれば、多少の世論の反発は無視してもいいという経営方針はありかもしれません。
しかし今の時代の芸能プロダクションの組織防衛論としてはこの対応は大きく間違っている。そこが問題です。
最も重要な判断ポイントとしては、大スポンサーがつぎつぎと契約更新を止めた段階。ここで対応方針を変えたほうが望ましかった。ビジネスとしてはスポンサー相手の商売をしているのがAKSです。経営に関わる甚大な結果が起きてしまったわけです。
そして客観的にみてもこの段階で「山口真帆が卒業すれば最後の一押しになる」ということも見えていたのです。にもかかわらず運営はその結果を引き起こしてしまいます。
やさしさがAKBグループを壊そうとしている
ファンの皆さんにはあらためて気づいてほしいのですが、山口真帆さんの手紙をステージで読ませるということ自体が、組織防衛論の教科書的には0点の行為です。にもかかわらず運営はそれを許容した。つまり組織を守りきることができない徹底的にやさしい人たちが運営している。そのやさしさが今、AKBグループを壊そうとしているのです。
「平成」の時代は善良でやさしい人が苦悩をする時代でした。しかしこれから始まる「令和」の時代は違うと私は思っています。周囲や世論をしたたかに動かすスキルを身につけないと生きていけない、苛烈な時代がやってくるのです。
令和の時代には経営者もユーチューバーになったり、ZOZOの前澤友作社長がかつてやっていたりしたように、ツイートを繰り返して世論を動かすことの意味を体感していかなければもはやダメな時代がやってくる。そんなことをAKSの事件から私は感じました。
これまでAKBグループについてはその影響力から芸能界では一定の忖度がなされてきました。私も関わっているBSスカパーの『地下クイズ王決定戦』は「地上派で放送できないアンダーグラウンドなクイズがつぎつぎと展開される」と銘うっているのですが、それでもAKBのスキャンダルについてはこれまで出題されることはなかった。
もしそういった芸能界の忖度が崩れるとしたら、そうなったタイミングがAKS組織防衛の最後の防衛ポイントなのかもしれません。
鈴木 貴博(すずき たかひろ)◎経済評論家、百年コンサルティング代表 東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。近著に『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。