彼らをひと目見たい!!

 デリケートなメンタルは、東日本大震災で露呈する。

「あまりのショックから食事もまったくとれなくなり、急性ストレス障害と診断されました。“東北の人が苦しんでいるのに自分は何もできない”と感じたそうです。物事を深く考える性格なので、“災害が起きたのに音楽をやっていて意味があるのか?”と考え込んでしまったんですね」(レコード会社関係者)

 一時は音楽活動を休止せざるをえなくなったが、草野は新たな方向性を見いだす。

「'11年6月3日、岩手県立大船渡東高校と岩手県立高田高校の2校で、スピッツがシークレットライブを開催したんです。生徒たちは突然のスピッツの登場に驚きを隠せない様子でした。生徒も先生たちも元気をもらいましたね。ツアーで忙しい合間にわざわざ足を運んでくださったんですよ」(地方紙記者)

 '14年10月には、被災した商店が集まった陸前高田未来商店街でのイベントにも登場。当時、運営に携わっていた商店街元職員の高橋勇樹さんに話を聞いた。

「10月5日に屋外会場で『小さな音楽祭in陸前高田』というイベントを行ったんです。サプライズゲストとして登場してくださったのがスピッツさん。参加を告知したのはイベントの2日前でしたが、彼らをひと目見たいと集まった人が会場の外まであふれました」

 ライブでは『ロビンソン』や『チェリー』『空も飛べるはず』などの名曲を歌い、アンコールにも応じたという。コンテナを使った仮設店舗から始まった商店街に、明るい熱気を運んできてくれた。

「親しみやすい柔らかい感じのライブでしたね。歌い終えたあとに商店街の飲食店でイベント関係者と食事もしてくださって、温かい気持ちが伝わりました」(高橋さん)

『優しいあの子』の「めげずに歩いたその先に 知らなかった世界」という歌詞は、草野自身が感じた気持ちだったのかもしれない。