何の審査をしたのか知らないが、1週間後に審査にパスしたという連絡があり、代理人の65歳の弟に仕事を休んでもらって一緒に出向いた。まったく、人の時間をなんだと思っているのか。
後日、違う支店に出向き、代理人要求について質問すると、「代理人はいりません」と即答し「ただし、審査は必要です」とだけ言われた。どうも、支店によって対応が違うようなので、もし貸金庫を借りるときは、事前に確かめたほうがいい。
個人を認めないこの国は“後進国”
そうか。この国は、18歳未満と70歳以上は一緒の枠で、保護者つきでないと個人として認めないのだ。「結婚しないあんたが悪い。子どもを産まないあんたが悪い」という男尊女卑の声が聞こえてくる。でも、それとこれとは別問題だ。
そういえば、以前、75歳の友人男性が家のリフォームを頼むときに、「あなたの印鑑だけではだめだ。子どもの印鑑が必要だ」と言われ、激怒していたのを思い出した。その人は子どもがいたから激怒だけですんだが、これからは、ひとりの人が過去にないほど増えるというのに、世の中の対応は逆行してはいないか。
ドイツの知人にこのことを話すと、ドイツではありえないし、考えられない、と笑われた。日本人は自分の国を先進国だと思っているようだが、個人を認めない日本は、後進国だと言われた。
「日本人だけが、わかっていない!」
わたしもそう思う。サラリーマンで立場が守られている人は感じないだろうが、そこからはずれた人を、この国は、人として見ない傾向がある。人にはそれぞれの生き方があるのに、自分の生き方しか認めない日本人そのものにも、問題はあるだろう。つまり、日本人は人のことを思う想像力が乏しいのだ。
身内に責任をとらせるこの国のあしき習慣は、即刻、やめるべきだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2035年には東京都のひとり暮らし高齢者が高齢世帯の半数に迫ると予測されている。
野党で、この人権にかかわる問題を積極的に取り上げてくれる人はいないのか。40代の人は、いずれもうすぐ自分のことになるはずだ。問題意識を持ってほしい。
<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP研究所)、『老後ひとりぼっち』、『長生き地獄』(以上、SBクリエイティブ)など多数。最新刊は『母の老い方観察記録』(海竜社)