岩崎容疑者と同年代の近隣住民は、
「両親が離婚したため、小学校入学前に父親の兄の家に預けられた。伯父夫婦と伯父夫婦の長女(容疑者より4歳ほど年上とみられる)と長男(同じく3歳ほど年上とみられる)と一緒に住んでいました」
と家族関係を説明し、
「上級生と走り回ったり、野球をしたりしましたが、体力的についてこられないと、泣きはしなかったけどひとりで家に帰ったり、家の前でポツンと座っていたりしましたね」
と振り返る。親に捨てられ、親戚に預けられた少年は、近くの公立学校に通っていたが、同居するいとこは名門私立カリタス小に通っていた。格差がすでに、岩崎容疑者に巣くっていたのだ。
スイッチとなった言葉
こころぎふ臨床心理センターの長谷川博一センター長は、犯行動機について、
「学校や学校関係者への復讐心が強い。学校があるから家族からこういう扱いを受けて、今でも悶々と苦しんでいるんだ、と。親から見捨てられた容疑者にとって、幸せ=カリタスだったと考えられます。いとこが今幸せに過ごしているのもカリタスだから。そういうふうに視野が狭くなった可能性はあります」
と指摘し、さらに踏み込む。
「昼間は部屋にこもりながら、悶々とそのことばかり考えてしまうという、思考がスパイラルに陥っていた。差別的に傷つけられた自分といとこの違いを生んだのは学校。学校を出るか出ないかによって、こんなに違ってしまったととらえたのではないか」
犯行時、ほかの学校の集団に見向きもしなかった岩崎容疑者は、無差別殺人を企てたのではなく、子どもたちを狙ったのでもなく、カリタスを体現している子どもや保護者を狙った─。その引き金があった、と長谷川センター長は、次のようにみる。
「実行に移る前に、何らかのトリガーがあった。それが(伯父夫婦からの)手紙です。その中にあった『ひきこもり』という言葉がスイッチになっている。育ての親に強い口調で言い返していますから」
容疑者の親族は、面談で8回、電話で6回、都合14回、川崎市に相談していたという。先月29日に記者会見した川崎市は「長期間、就労せずに、ひきこもり傾向にある」「伯父と伯母に介護サービスを受けさせたいが、外部の人が家の中に入ったときの(容疑者の)反応が心配だ」といった相談を受けていたことを明かした。
伯父夫婦は川崎市の提案に従い今年1月、手紙を書き、岩崎容疑者の部屋の前に置いたという。
その反応は「自分のことは自分でやっている。食事や洗濯も自分でやっているのに、ひきこもりとはなんだ」という怒りに満ちた返事だった。