コンプレックスを
誇りに変えたNY
クリスタルさんが『ピピン』を初めて見たのは、約2年にわたって日本を離れ、ニューヨークに拠点を置いていたとき。それはある意味、ピピンと同じく“自分探し”の道程だった。
「アメリカのステージで音楽のチャレンジをしたくて、たくさんの曲を作ったり、ライブもやりました。演技クラスにも行って、コーチのすすめで“対人恐怖症克服コース”も受けたんですよ(笑)。そこで勇気をもらえた気がします」
それまでのクリスタルさんは自分のアイデンティティーについて苦しみ、いざというときにハッタリをかませない自分に悩んでいた。
「私は日本で生まれ育ったんですけど日本の血が一切入っていなくて(父はアメリカ人、母は韓国人)、ずーっとコンプレックスを抱えていたんです。
でも、ニューヨークはいろいろな人種の人が夢をつかみに集まっているところ。すごく厳しいし、自分をしっかり持っていないと置いていかれます。そしてユニークさが評価されるから“君はほかの人より何がすごいの?”と、よく言われる。日本だとコンセンサスが大事にされますよね。“出る杭は打たれる”というから周囲と合わせようとするマインドが私にもあって。
そういうコンプレックスで縮こまっていたんです。でもニューヨークでそういうことを話すと“何言ってるんだ君は。3つのカルチャーを背負っていて、日本ではちゃんとキャリアを築いているんだからすごいことじゃないか、もっと誇りを持つべきだ”と言われて。“そうだよな”って思ったんです(笑)。
そういう切り替え方が、日本ではなかなかできなかった。母はいつも言うんです、“ふざけるんじゃないわよ、どれだけ恵まれていると思ってるの!”って(笑)」
そのとおり。もともと歌えて踊れるうえ、一流のスタッフがリードしてくれる今回の現場で演技力をつけたクリスタルさんは“鬼に金棒に日本刀”くらい強力なエンターテイナーになっていそう。
「本当に、得るものしかないな、と。これができたらコワいものはないですね。だから、最高のリーディング・プレーヤーにします!」
その先に、クリスタルさんが見ている夢とは?
「いまはどんどん世界が国際化していますよね。来年は東京オリンピックだし、国と国とのボーダーが薄くなってきていると思うんです。だから私は、世界の架け橋になりたい。それは音楽でかもしれないし、こういうミュージカルか、映画かもしれない。演技にもすごく興味が湧いているので、どのジャンルであれエンターテイメントで架け橋になりたいな」
<出演情報>
ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン PIPPIN』
スティーヴン・シュワルツが作詞・作曲を手がけ、自分探しをする王子の旅路を描いたミュージカル。1972年の初演では、鬼才ボブ・フォッシーが演出と振り付けを手がけトニー賞5部門に輝いた。そして2013年、フォッシーのスタイリッシュなダンスにマジカルなサーカス・アクロバットを掛け合わせたダイアン・パウルスの新演出が大評判をとり見事、トニー賞4部門を受賞。この新演出を手がけたクリエイティブ・チームが再集結、来日して挑むのが日本人キャスト版『ピピン』だ。6月10日~30日 東急シアターオーブで上演。その後、名古屋、大阪・静岡公演あり。
お問い合わせはキョードー東京。詳しい情報は公式HP(http://www.pippin2019.jp/)へ。
くりすたる・けい◎1986年2月26日、神奈川県生まれ。'99年、『Eternal Memories』でデビュー。'05年にはドラマ主題歌の『恋におちたら』が大ヒット、’07年にアルバム『All Yours』がオリコン初登場1位を獲得する。'13年、『DANCE EARTH~生命の鼓動~』で初めて本格的な舞台に立った。その後、ニューヨークに拠点を移しての2年間を経て、'18年にはアルバム『For You』、ドラマ主題歌『幸せって。』などで話題の的に。来年6月には2作目のミュージカル『ヘアスプレー』で渡辺直美と共演の予定。
<取材・文/若林ゆり>