そのほかのシーンでも、スタッフが目的地のポツンと一軒家を探す道中、快く道を教えてくれる人が多く、なかには「私たちでも迷うくらいだから」と言って車で先導してくれる人もいました。
一部の人々から見たら不安と不満だらけの不便な暮らしも、そこに生きる人々の穏やかな表情が、「幸せとは何か?」という問いに対する何よりの答えに見えます。その意味では、「田舎暮らしだからこそ育まれる人間の優しさや温かさを視聴者が分けてもらう」という番組なのかもしれません。
日々、テレビやネットで殺伐とした事件・事故のニュースに触れることの多い現代人は、ポツンと一軒家に住む人を見て、「自分たちが当たり前と思っていることのすばらしさ」を感じているのではないでしょうか。とくに元気で明るく、苦労を苦労として感じさせないお年寄りたちは、私たちが忘れかけている古きよき日本人の姿に見えるのです。
スタッフの謙虚な取材スタンスに好感
前述した視聴者を癒やすような世界観を支えているのが、現場の取材スタッフたち。
同番組の取材は、地図や道路さえない家を目指すうえに、せっかく一軒家にたどり着いても、空き家だったり、取材を断られたりなど、「成果ゼロ」に終わるリスクが高く困難を極めます。そんな過酷極まりない仕事であるにもかかわらず、スタッフたちは謙虚な取材スタンスを徹底。田舎暮らしの人々が話しやすく、視聴者も見やすいムードを作っているのです。
現在の視聴者は、タレントのちょっとした上から目線にも気づいてしまうほど目が肥えているもの。「“出たとこ勝負”のドキュメンタリーであるため、タレントをロケに出しにくい」という事情こそありますが、スタッフが取材することで庶民同士の触れ合いとなり、温かいムードが生まれているのです。
もしタレントが「ポツンと一軒家」のロケをしたら……と想像してみましょう。中には「こんなところに家なんてないよ」「エッ? こんな道を行くの?」「危ないからやめよう!」などの演出がかったグチをこぼす人もいるのではないでしょうか。また、芸人の場合、笑いをほしがるあまり、住民に対して多少の失礼なコメントが口を突いて出るかもしれません。