情報の貧困

 本書の編集を担当して強く感じたのは、「困難な状況から抜け出すことができたのは、富井さんに特別な力があったからだけではない」ということです。もちろん、過酷な環境に屈せずに努力を重ねてきたことは事実ですが、それだけで脱出できるほど現実は簡単なものではないと思います。

 彼女自身もそのことを強く感じていて、特に貧困にあえぐ人々が陥りやすい「情報の貧困」について、積極的な支援活動を続けています。

私は、こういう支援活動は、メディアに取り上げてもらうことはもちろん大きな推進力になりますが、当事者とその周辺の方々に、情報拡散していただくことがとても大事だと考えています。

 そのため、対象者を明確にして記憶に残りやすくすると同時に、口コミで広げていただくことをお願いしています。すると、「支援の対象に該当しないかもしれないけれど、気になる親子がいる」などの情報が、一般の方からも寄せられるようになりました。

 そんなふうに窓口になることも大切で、私のところの支援で足りなければ、行政はもとより他の支援団体につなげることができます。そうやって、1組でも多くの親子を「情報の貧困」から救いたいとも思っています。

 自分自身が子ども時代に苦労してきた経験があるからこそ、「普通じゃない」ことのつらさがわかり、発信できることがあるのです。

私も当事者だった頃、情報を持っている人が近くにいたらと思うと、残念でたまりません。支援を必要としている人は情報を得るために使える時間も機会も少なく、こんなにメディアが発達しているのに肝心なところに届いていないという歯がゆさを感じています。私が声を大にしても届く範囲は限られるので、宮崎から離れたところにお住まいであっても、口コミという支援でご協力いただけると嬉しいです。》

 社会活動家で現在東京大学特任教授の湯浅誠さんは、本書に対して「貧困の連鎖は断ち切れると実証している人生が、ここにある。希望をありがとう」という推薦コメントを寄せてくださいました。

 絶望を希望に変えるチャンスはどんな人にも備わっている。彼女の生き方は、そのことを強く感じさせてくれるのです。

『その子の「普通」は普通じゃない 貧困の連鎖を断ち切るために』(ポプラ社)
著=富井真紀 
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PROFILE
●富井 真紀(とみい・まき)●一般社団法人日本プレミアム能力開発協会代表理事。『その子の「普通」は普通じゃない―貧困の連鎖を断ち切るために』(ポプラ社)が初めての著書となる。