虐待対応の専門機関を

 最近起きた3つの事件では児相の過失が指摘されている。虐待対応について、なぜ児相は十分な力を発揮できないのだろうか? それは、必ずしも専門的な知識や経験を持つ職員が配置されていないことが背景にある。

 厚生労働省の調査('16年4月)で児相内の無資格者の割合が出ている。都道府県・政令市別に見ると、0%は金沢市のみ。10%未満は横浜市、相模原市、神戸市、岡山市、福岡市、熊本市だ。一方、北海道や青森、岩手、宮城、福岡、佐賀、熊本、鹿児島の各県は半数以上だ。

「都道府県でも差があります。児童福祉司がベテランばかりのところもありますし、一方で、経験年数が短い人ばかりのところもあります。札幌のケースでも、ベテランであれば違うかもしれませんが、経験年数が短い場合、警察と同行したとして、虐待を判断できたかはわかりません。専門性を高めるため、児童福祉司の国家資格を作るという話もあります。しかし何年かかるのかわかりません。現実的ではないと思います」

 児相の質を上げるには研修を充実させればいいという話もある。

「福祉的な視点はあったほうがいいので、研修は必要です。ただ、1週間程度の研修をすればいいというものではありません。一般職ではなく福祉の専門職の採用枠を作ったり、すでにあるところは増やすことが必要です」

 児相は虐待対応だけでなく、発達障害や不登校の子どもの対応もする。そのため、虐待対応に特化した専門機関の必要性を指摘する。

「アメリカやイギリスでは、虐待対応の専門機関があります。日本でも、同様の機関を作り、そこで働く職員を専門職として採用することが必要になってきています」

 また、今国会の終盤で、親の体罰を禁止する児童福祉法改正がなされた。「しつけ」と称して体罰が行われ、虐待事件に結びつくからだ。実際、目黒区と野田市の事件で、虐待の疑いで逮捕された父母は「しつけのためだった」と釈明している。

「体罰とは何かの規定がありません。どこまでが体罰なのかを議論する必要もあります。同時に、川西市の子どもオンブズマン制度のように、子どもの声を聞くシステムの構築も必要です」

(取材・文/渋井哲也)


《PROFILE》
山野良一さん ◎沖縄大学教授。神奈川県の児童相談所に勤務後、米留学などを経て現職。近著に『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書)