生い立ちが漫画にも
「その追い込んでいた時期と重なるように、斉藤倫先生の『水晶の響』が本格的に動き始めたんですよ」
『BE・LOVE』(講談社刊)で5月から掲載がスタートし、現在も連載中のこの漫画は、3歳で脳性まひと診断された幼少期からの水晶がモデルとして描かれている。
「連載が決まったときは、うれしさと、もう逃げられないな、という思いとで、さらに追い込まれていった感じがありました」
この1周年コンサートにも、斉藤倫先生がトークゲストとして登場し、16歳で演奏活動を始めたばかりの水晶と偶然にも運命的な出会いをした話などで盛り上がった。
「漫画の中の僕は、目が大きくてフランスかぶれみたいにカッコよく描かれていますが (笑)、お母さんの顔がいちばんそっくりですね。恩師の中西俊博先生(作中では中吉)の雰囲気はまさにドンピシャ。ただ、名前が“なかよし先生”なのには、ププフプッと笑っちゃう。
親友のなつきくんは、すごくさわやかに描かれてるけど、実際はケンカが好きな子だったんです。耳が聞こえないから、彼にとってはぶつかることがコミュニケーションだったんですよね。こうして僕の人生が漫画に描かれてるなんて夢のようで、今後が楽しみです。ただ、僕の顔はもう少し眉毛を増やしてもらいたいですね(笑)」
ユーモアを交えたトークは、周囲を楽しい雰囲気にし、その飾らないまっすぐさに誰もが惹かれてしまう。
この1年を振り返ると、まさに「激動の年だった」と彼は言う。そして、家族や自らの病状も含めて、これからも、その日々は続いていく。
「僕はもともと格闘技マニアで、リハビリのためにも長くボクシングをやっていたので何でもボクシングにたとえるクセがあるんですけど。デビューする前の僕は、常に青コーナーにいる挑戦者だったんです。でも、メジャーデビューした今は、素晴らしいセコンドと名トレーナーに支えられて、挑戦者を迎える赤コーナーに立つ日本チャンピオンみたいな気持ちです。
音楽は争いごとじゃないし、何を言ってるか、わかりづらいかもしれないけど。
ファンの方たちや大勢の方が僕の背中に夢をのせてくれている。その責任は計り知れなくて、僕に逃げ道はないんです。“よし、かかって来い!”と言いながら、さらに世界チャンピオンを狙っている。それが今の僕です」
デビュー2年目への目標は、「去年の自分を超えること」。
障がいによる衰えを受け入れながらも、決してあきらめずにあらがい続ける。青コーナーに立つ挑戦者は、もしかしたら、昨日の式町水晶なのかもしれない。
(取材・文/相川由美)