次に、このキャラクターをどう名付けるかが、大きな思案のしどころでした。
それまでのマリーンズキャラクターの名前は、マリンーズにちなみ、『マーくん』『リーンちゃん』『ズーちゃん』でした。名前は命名と同時に、キャラクターにイメージを与えてしまいます。例えば「魚太郎」だと和風で男性、「マイケル」なら外国人男性、というような先入観をもたれてしまいがちです。だからこそ、ネーミングに関しては、かなり難航したという。
「本当に、いろいろな名前が候補にあがりましたが、どれも決め手に欠け、時間だけが過ぎていきました。この際、名前がない設定が斬新かもと、具体的な名前はつけず『謎の魚』に決定したんです。もちろん、多くの関係者はこの方針に“本当に大丈夫なのか”と懐疑的な見方をしていましたが……(笑)」(ロッテ球団広報)
極めて初期設定はシンプル。詳細は視聴者のご想像におまかせです、というスタンスでスタートしたこのキャラクターについて、戦う側である、千葉ロッテマリーンズの井口資仁監督に伺ってみました。
「私は謎の魚がとても好きで2017年末に都内で行った引退パーティーにも招待をさせてもらったほどです。魅力はやはり、なんともいえない不思議さではないでしょうか。これまでのキャラクターにはない新しさ。名前もわからない。詳しいプロフィールもなく、想像をかきたてられる。SNS社会の今にはピッタリで、いわゆるインスタ映えするキャラクターな気がします」
人がSNSに投稿するのは、映える外見であり、ツッコみどころあり、人々の議論を煽(あお)る要素があることが、ポイントです。『謎の魚』は、名前、変身する姿、さらにプロフィールがほとんどないという設定が、SNSで話題になり、制作サイドの思惑は、見事に的中したのです。
実際、ツイッターなどでは「普通にキモい!」「ロッテの新キャラ最高かよ」「キモカワ」と、プロ野球ファンだけでなく、ネット住民を巻き込んで話題となりました。
「こちらから『また変身するらしい』『もっとスゴイ形になるみたい』などのメッセージを発信することで、観客や視聴者の想像力をかきたて興味を持ってもらうために、魚の変身も1日で完結させず時間をかけて少しずつ公開し、飽きさせない工夫をしました。
おまけに詳細なプロフィールがないため、マニュアルどおりの動きもなく、魚の行動は予測できない。神出鬼没だからこそ、偶然に出会ったファンや視聴者は驚き、楽しみ、SNSにアップしてくれることによって拡散され、話題になったのだと思います」(ロッテ球団広報)
話題になったのは、その姿だけでなく『謎の魚』の言動にもあります。
球団キャラクラーですから、当然、開幕戦から登場すると思いきや、一切、姿を見せず、突然ツイッターで、「ぐふフフフ、今日はチケットが完売なので開幕戦はいきません。ぐふフフフ」とつぶやき、屋久島に行ってしまったり、台湾に上陸して台湾プロ野球の始球式に出たり、ハワイアン航空からオアフ島に招待されたり、“魚の競り”という謎の企画でとある企業に800万円で落札され、トラックで連れていかれてしまったり……。まさに、これまでのキャラクターでは想像もつかない異次元の行動をとっています。