わからない世界を生きとる
金城さんは誰かが亡くなると、葬式では必ずその人の歴史を語る。どう生まれ育ち、どう戦後を生きたか。金城さんは少年たちと1年以上かけて野仏を作った。
その作業を通し、人間の生き死にに関心を持ち、チビチリガマで死ななければならなかった命にも思いを馳せてほしかった。
金城さんは、ある1人の少年が気になっていた。親に育児放棄されて育っていた。1年後、全員に反省文を書かせたところ、よいレポートを書く少年たちのなかで件の少年のレポートは誠意を感じられなかった。
少年たちを知れば知るほど、「わからない世界を生きとる」と金城さんは感じた。
例えば、無職の少年。若くして結婚し、離婚の末、自分がされたように育児放棄をしてしまう少年。
その一方、世間には裕福な子どももいる。同じ世代でも、環境の差によってまったく違う多様な歴史をたどっている。
金城さんは、沖縄の少年犯罪について保護観察官に聞いた。事件のあった'17年は約1万5000件の少年犯罪があったと知る。沖縄県の人口の約1%に当たる。金城さんは驚いた。
もうすぐ、事件から2年がたつ。少年たちの複雑な背景を金城さんは間近で見続けた。
「彼らを見ていると悲しい。これでいいのかなと、俺が深みにはまってしまった。保護観察官から連絡はないが、保護司をやめたつもりはない。これは、宿題だ」
そう金城さんは言った。