思ったことを言っていいんだよ
「“戦争はいけないと思いました。亡くなった人がかわいそうです”。これが正解、という言葉しか出てこない。それに何の意味があるだろう、と落ち込んでしまって」
そう話すのは、那覇市の親川志奈子さん(38)。『島くとぅば』(島言葉)や『うちなーぐち』(沖縄語)復興の研究をし、今年から自分の住む地域の学童指導員も務める。
沖縄戦のことを子どもたちに伝えても「自分ごと」につながらない印象がある。
「これまでは、伝える側のやり方に課題がおかれていました。でもいま、80〜90代の、これまで伝え続けてくれた戦争体験者にテクニックを磨いて、という話ではないと思う」
言語復興の研究をするなかで親川さんは気がついた。言語は、生まれながらにその言語を話す“ネイティブスピーカー”が教えなくてはならないという思い込みがあるが、海外では弟子や学生の役割が大きい。
かつて沖縄の言葉を禁止され、日本語を話さないと殺す、とまで言われた時代があった。その世代の人に「いかにうまく、うちなーぐちを伝承するか」を背負わせるのは酷な話だ、と考える。
「沖縄戦の継承も同じ。むしろ聞く側の聞く力、自分とつながっている問題だという意識を作ることが私たち世代の役割だと思う」
と親川さん。さらにこう続ける。
「若い人は、貧困やDVなど、いまの社会の厳しさを抱えています。その中で、学びの環境を整えることは難しい課題。チビチリガマの事件も、学ぶ環境に立たせてあげられない沖縄社会、私たちの問題でもあると思っています」
学童指導員をしていると、沖縄で生まれ育った子どもだけではなく、沖縄県外からの移住者も、アメリカ人とうちなーんちゅ(沖縄人)を親に持つ子どももいる。
多様なルーツを持つ子どもたちがいて、それがリアルな沖縄だとわかる。そうした実態を踏まえ、例えば沖縄戦について、自決を強要した日本軍が悪い、侵攻したアメリカ軍が悪いといった二項対立の話にとどまらず、丁寧に伝えていかねばならない。
だが、そう考えていても、子どもたちは「戦争はだめ、かわいそう」と判で押した感想を言い、「平和学習を乗り切った」ように思っていると感じる場面さえある。
「でも、そうさせられている彼らも気の毒に思います。沖縄戦について、思ったことを言っていいんだよ、と言ってあげたい」(親川さん)