私の次の仕事は“語り部”
黒田は祈願碑建立の20数年に及ぶ苦難の道のりを、著書『それでも、私はあきらめない』にまとめた。韓国語版も出版され反響が広がっている。
「“忘れないでくれ、俺たちのことを!”そんな気持ちが多くの方の心を揺さぶっているのでしょうね」
なぜ、そこまで石碑にこだわってきたのか。最後にそう尋ねると、すがすがしい笑顔を浮かべて、こう言った。
「私がやらなかったら誰もやらないからかな。私だってこんな苦しいことをやりたくはなかった。時間もお金もかかるし。でも、きっとこれが私の使命なんですよね。韓国語で“八字”って言うんだけど、四柱推命でいう“宿命”。もう絶対やめようと思っても喉元すぎるとまた始まってしまう。
実はこの本を書き終わって“ああ、これでようやく”と思った。ところが、今度はいろんなところから“話をしてください”と要請が入る。私の次の仕事は“語り部”かと。なかなか終わらせてもらえない感じですね」
尼寺である法輪寺の住職、鉉庵さんが言う。
「黒田さんの慈悲深い姿はまるで“功徳”を積む菩薩の姿でした。この事業は、われわれがまずしなければならなかったのに、おざなりにしていたのだなあと悟りました。そして、国境も理念も越えた、永遠なる命のために、この事業を必ず成し遂げると誓いました。毎年、重陽節に来てくださるみなさんにも感謝の気持ちでいっぱいです」
今年もまた、8月15日がやってくる。
そして旧暦の9月9日(今年は10月7日)、法輪寺で11回目の「帰郷祈願碑 重陽節法要」が行われる。
取材・文/小泉カツミ(こいずみ・かつみ)ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』がある
撮影/新納翔(にいろ・しょう)写真家。消えゆく都市風景をテーマに活動。国内外での個展多数。写真集に『Another Side』『築地0景』『PEELING CITY』などがある。