「最初は全然すごくなかったんですけどね」
10月5日のサモア戦でトライを決め、初戦のロシア戦でもMVPの活躍を見せた姫野和樹について語るのは、名古屋市立御田中学校で指導した松浦要司先生。
「入ったときは165cmくらいでぽっちゃりとした、声変わりもしていない幼い少年でした。それでも機敏にボールを扱ったり、動けていたので、運動のできる子だなとは思いましたけど、取り立てて目立つ存在ではなかったというのが印象ですね」
しかしグングンと身長は伸び、中学2年にして180cmに。
「中2の秋ごろには、1対1の練習で姫野を部員では誰も止められなくなっていましたね。だから、当時私も一緒に練習やっていましたので、“俺が相手してやるから来いよ”ってやったら、何回やっても勝てなくて(苦笑)」(以下、松浦先生)
練習中は本気禁止に
規格外の身体能力のため、松浦先生は異例の対策を取ることに。
「姫野が本気を出しちゃうと相手にケガをさせてしまうので、練習中は彼に“本気出すな”って言って、本気禁止にしてました。練習試合とか公式戦だったら全開に力出していいぞ、と。それが気に入らなくて“なんで僕だけ本気を出させてくれないんだ”と言ってきたりしましたね。
ウチの部は毎日、最後に試合形式の練習をしていたんですけど、時間がなくてそれができなかったときは“なんで今日やんないんすか!”とか、食ってかかってくることもしょっちゅう。感情のおもむくままに思ったことを言うという感じでしたね。精神的な部分に幼さがあって、それが彼の中学時代の課題でした」
しかし、そのヤンチャさも、ラグビーに真剣に取り組むがゆえ。学校生活では教師にも愛される存在だった。
「基本的に素直なんですよね。今もそうなんですけど、人懐こい。だから、いろいろな先生からすごい可愛がられていました。食ってかかるみたいなのは負けず嫌いだからなので」
負けず嫌いというと、こんなエピソードも……。
「中3のときの学年主任に腕っぷしの強い先生がいたんですけど、その先生とよく腕相撲をやっていて、彼はずっと勝てなかったらしいんですけど、ある日挑んだら、先生のひじを“バキッ”って(笑)。その先生の腕の靭帯(じんたい)を損傷させたことがありましたね」
高校時代にはヤンチャな気持ちをコントロールできるように。愛知県の春日丘高校(現・中部大春日丘高校)で指導にあたった宮地真監督は、
「戦う相手が強い高校が多かったので、何かに文句を言うとかはなくて、できない自分に対して“矢印”が向いていた感じでしたね。県外に出ればすごい子がたくさんいるので、そうすると自分がどうとかチームがどうとかよりも、その相手にどうすれば勝てるのかを考えていましたね」
その“規格外さ”は、ワールドカップでも通用している。