瀬戸内海に浮かぶ周囲4・2キロの小さな島・青島が一躍、脚光を浴びたのは2013年の夏のこと。
動物カメラマンとして世界的にも有名な岩合光昭氏が青島を訪れ、猫たちを撮影。その様子がテレビ番組で放送されるや、たちまち青島は“猫の楽園”として注目を集める。
楽園どころか地獄絵図に
「さらに島民10数人に対して猫が100匹。猫密度の高さが動画サイトで話題になると、閲覧者数はあっという間に数百万人に達し、国内はおろか世界各国から“猫と触れ合いたい”と願う愛猫家たちが訪れ、島は観光客であふれ返ってしまいました」
そう話すのは、公益財団法人『どうぶつ基金』の佐上邦久理事長。突如、脚光を浴びた青島だが、島内には宿泊施設はもちろんのこと、トイレや自動販売機すらない過疎の島。
ところが“猫の楽園”として注目を集めたことも一因となり、猫の数は増え続け、気がつけば200匹以上に膨れ上がっていた。
「地元の愛護団体がエサやり、掃除、ノミダニ駆除に奔走していましたがもはや限界。地元・愛媛県大洲市も手をこまねいて見ているばかりでした」(佐上さん、以下同)
やがて猫が倍増したことで、恐れていた事態が起きてしまう。
観光客から気まぐれに与えられるエサにありつけずにやせ細った負け組の猫が行き倒れ、飢えて食い殺された子猫たちの死骸があちこちに転がった。青島は“猫の楽園”どころか地獄絵図へと様変わり。
「見かねた地元の獣医師会やボランティアによってメス猫80匹の不妊手術を行いましたが、この手術によってオスとメスのバランスが崩れ、ますます状況は悪化。不妊手術を受けていないメス猫は、数に勝るオス猫たちに囲まれゆっくりご飯を食べることもできずやせ細るばかり。子猫は母親の育児放棄などにより、ほとんど成長することもできませんでした」
こういった惨事を招いたのは、決して行政だけの責任ではないと佐上さんは話を続ける。
「自立した野良猫を動物愛護センターで引き取ることは法律で禁じられており、行政も手が出せない。さらに無料で不妊手術をするといっても、“子猫の顔が見たい”と反対する島民もおり、なかなか意見もまとまりませんでした」
しかし、この惨状が国内だけでなく、海外にもSNSを通して報じられたことから、地元ボランティア、行政、島民が粘り強く話し合い、2018年10月。ようやく『どうぶつ基金』によるオス・メス一斉TNR(※)が行われることとなる。