座右の銘は“和顔愛語”

 家族が許し合う姿を描いたこの作品のエドワードを思うとき、川平さんが「僕よりもっと似ている」と思う人がいる。父だ。

「僕の親父は“寛容”という意味で、エドワードに似たところがあるんですよ。若いころの僕にはわからなかったんですが、最近、“親父、すげーな!”ってよく思わされます。父はクリスチャンなんですが、座右の銘は“和顔愛語”。仏教用語だと思うんですけど、クリスチャンの精神にもあてはまるって。優しい、柔らかな顔で愛をもって語る。そういう男なんです

 僕なんか、ときどき何かに腹を立てて毒づいちゃったりするけど、父は失礼な相手にも絶対に怒らない。相手を取り込んで、和やかに包み込むんですよね。昔は“綺麗事を言ってるんじゃないよ、親父”って思ってましたけど、いまは“俺がちっちゃかったな”と思います。あんなふうになりたい

 その“寛容”の精神が、『ビッグ・フィッシュ』にも脈々と流れている。

いまの日本って、どうも不寛容な気がしていて。もっと“許す”ことが必要なんじゃないかな。ウィルも父親のことを許して、大きな幸せを得ますよね。“寛容”というのは、人が許し合うためのツールのような気がするんです。そこに生きる喜びが生まれるんじゃないか。僕も初演から今日までいろいろな経験をしていますから、生の部分でもっと根幹が太い、ピュアな、羽ばたくエドワードになりたい。

 よりはしゃいで“こいつ、生きていることを謳歌してるな”と感じてもらって、“人生、そんなに悪くないぞ、一緒に登っていこう!”と、大きなエナジーを伝えたいですね」

(取材・文/若林ゆり)

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』
 
自分の人生を大げさに語るエドワード・ブルーム(川平)の冒険と、妻サンドラ(霧矢大夢)との愛、彼を理解できない息子、ウィル(浦井健治)との絆を描くミュージカル。
 ファンタジックな世界観の中に浮かび上がる家族のラブストーリーが感動を呼び、キャッチーな楽曲も心に残る。今回は12人のキャストによる新演出“12 chairs version”での上演。
 11月1日~28日 日比谷シアタークリエにて。その後、愛知、兵庫公演あり。
問い合わせ:東宝ナビザーブ TEL:03-3201-7777。詳しい情報は公式HP(https://www.tohostage.com/bigfish/)で確認できる。

●PROFILE● かびら・じえい 1962年9月23日、沖縄県生まれ。
 大学在学中に俳優デビュー。歌・ダンス・芝居と三拍子そろった実力で舞台を中心に活躍しながら、サッカーナビゲーターとしても人気者に。出演作に舞台『J・キャグニー』『雨に唄えば』『Shoes On!』シリーズ、『オケピ!』『趣味の部屋』『日本の歴史』『ピカソとアインシュタイン~星降る夜の奇跡~』など。テレビ『ちりとてちん』『コレナンデ商会』など。映画『THE 有頂天ホテル』など。
 '20年7月にはPARCO劇場のオープニング・シリーズ『三谷幸喜のショーガール』に出演予定。