有料面会「なんでも聞いてください」
その後、「ネットで出会った人数」や「アカウントはいくつなのか」、「『首吊り士』というアカウントは、なんと読むのか(くびつり・ざむらい、と呼ぶ人もいたために、確認したかった)などの質問には、「それは有料です」と答えるだけだ。
ここまできて“無料で聞ける質問”は、ほとんどなくなってきた。意図的に、白石が少しだけ答えて、その後の回答は有料としているのではないかとも思っていた。だとすれば、私は、白石に誘導されているようなものだ。しかし、事件への興味から「まだ話したい」「まだ知りたいことがある」とも思ったのも事実だった。
面会時間の終了が近づき、拘置所職員が合図をした。そして、白石を面会室から連れ出そうとする。そのとき白石が言った。
「これ以上、話を聞きたければ、有料です。もし、希望するなら時間をとります。手紙よりも電報のほうが早いので、スケジュールを書いておいてください。そうすれば、その日は空けておきますので」
さすがナンパ師。人の心を動かす戦術を知っているのだろう。そのため、私は「もっと話を聞きたい」という感情に、強く支配された。
拘置所から出るときに、私はお金を払うべきか悩んだ。すでに出版社の中には、有料でインタビューしている雑誌もあったが、まだまだ聞きたいことはたくさんある。
裁判が始まり白石が“証言”をしたとしても、本当のことを話すかはわからない。それ以前に、傍聴希望者が多いことが想像でき、抽選に当たるかどうかもわからない。ならば、一度だけでも事件の詳細を聞きたい。
葛藤の末、私は事件の話を聞くことし、拘置所の近くにあるコンビニで現金を引き落とし、再び、拘置所へ戻って白石から提示された額を差し入れした。そして帰宅後、次の面会日を書いた電報を送ることにした。
それから約2週間が経過し、私は再び、立川拘置所へと向かった。
このときは面会室「3番」に通された。ほどなくして白石が現れ、彼は開口一番、「なんでも聞いてください」と言った。
事件の本題に関する詳しいやりとりは、拙著『ルポ 平成ネット犯罪』に記しているが、いちばん印象に残っているのは、白石はアカウントを5つ持っていたというが、もっとも女性の反応がよかったのが「@死にたい」だったということだ。自殺を考えている人は、話を聞いてほしいという心理があるからだろう。
いくつものアカウントを使って、自殺をしたい人とつながった白石だが、本人は、少なくとも事件を起こす前、自殺願望はなかったという。被害者に「一緒に死のう」などと言ったのは、あくまでも誘い出す手口だった、ということだ。
「自殺は考えたことはないですね。あるとすれば逮捕後。厳しい時期があったので頭をよぎったんです。でも、立川(拘置所)に移って環境が改善されたんです。ごはんも美味しいので、今は大丈夫です」
警察の取り調べの中で、「厳しい」と感じるときがあり、自殺を考えたということか。事件で逮捕され、勾留されていれば、心情的にネガティブになることはあるだろう。しかし、自殺が頭をよぎるほどの圧迫を感じることはめったにないはずだが、起こした事件の大きさを考えるとしかたない。