心を病まないようにするために
警察に捜査を依頼し、情報開示をSNSに求める裁判を起こし、その後にようやく加害者への裁判を起こす……となると、かなりの時間とお金を要してしまう。そこまでできない人も中にはいるだろう。トラブルが起こっても“スルーする力”は、SNSを楽しむ上で重要なのだとキクチ氏は言う。
「その力を身につけておかないと、傷ついて心が病んでしまいます。Twitterは“お皿”みたいなもので、応援のリプライがスープだとしたら、誹謗中傷はハエのようなもの。スープの中にハエが入り込むと、面積はスープのほうが広いのに、どうしても小さなハエが視界に入る。それと似た感覚で応援より悪評のほうが気になってしまうんです。誰にでもハエは飛んできます。でも、それを自分で見ないようにしないと、SNS自体がストレスになってしまいます」
自分の経験があったからこそ、ネットに関するリテラシーに興味を持ち、意識が高まったというキクチ氏。現在はネットでの言葉の責任の重さを説いたり、自身の壮絶な体験談を語るなど、全国各地で講演会を行い、被害にあった人へ向けてアドバイスを送ることもある。
「“フィルタリング”を、スマホではなく自分の感情につけないといけないですね。僕自身も、Twitterに投稿するときは必ず事前に1度、下書きします。書き終えたら一度冷静になって、半日〜1日ほど経って見直して投稿するようにしています。
SNSでは、フォローしている人以外の発言が目に入りにくい。見えている情報だけを信じ込まず、ネットから離れて他人の意見を聞いたり、冷静に考えることも必要です。SNSを使いこなして便利に情報を手に入れるか、それともデマに翻弄されるかは、その人の心構え次第だと思います」
20年間の末に見いだした“ネット社会との付き合い方”は、現代を生きる多くの人の教訓となっている。