「ずっと身体に力が入りながら見ていました。フッカーの選手とは思えないようなターンからオフロードパスで得点へとつながった場面は、さすが堀江選手だなぁって」
10月13日のスコットランド戦における堀江翔太の活躍について、うれしそうに語るのは金澤巧貴さん(21)。彼は今、車いすに乗っている。
高校時代の堀江は、全国大会で予選敗退。“花園”にはスタッフのボールボーイとして3年間を過ごしたが、今では日本代表の要といえる存在となった。スポーツライターの大友信彦さんの評価は、
「海外の“スーパーラグビー”でもプレーし、世界の選手とも渡り合える能力と経験値がある選手です」
と太鼓判を押す。その人柄についても、
「困っている人を放っておけず手を差しのべるところがある。奥さんとの出会いも、そのひとつです」
突然堀江選手が入ってきて──
冒頭の金澤さんも、堀江に助けられたひとりだ。
金澤さんが高校1年生のとき、ラグビー部の練習中に首を脱臼骨折。目が覚めたのは病院のベッドだった。
「首から下が動かず、昨日できたことができない。現実を受け入れられなかった」
寝たきりとなった金澤さんは絶望に押しつぶされそうになりながらも、友人や家族に励まされ、リハビリに取り組んだ。そして、忘れられないというのが'14年1月のこと。
「ちょうどその日に堀江選手が出ていた試合の録画を、病室で見ていました。すると、突然ドアが開き、堀江選手が入ってきたんです。テレビにも病室にも堀江選手がいて、最初は混乱しました(笑)」
連れて来てくれたのは、堀江の高校時代の恩師である天野寛之さんだった。金澤さんは天野さんと親交があった。
「試合後に堀江と食事に行く予定だったが、金澤君の話をすると、見舞いに行って激励したいと言うので連れて行ったんですよ」(天野さん)
堀江と金澤さんは吹田ラグビースクールの先輩後輩だが、この日が初対面。一緒に録画をした試合を見て、2時間ほど話し込んだという。
「日本代表選手が見舞いに来てくれるなんて信じられませんでした。堀江選手の話や、僕のリハビリの状況など、いろいろな話をしました」
その中で、いまも忘れられない言葉がある。
「“頑張ってるのはわかる。どんどん回復していけるように前向いていこう”って。堀江選手は今も最前線で頑張り続けている。僕にとっては力をくれる存在です」
堀江のなびくドレッドが見る人に力を与えている。