“すごい暑いですね~”と場を和ませた
晩年はがんとの闘いの連続だった。'17年春に乳がんが発見され手術したが、同年冬に膵臓がんが判明。翌'18年1月に7時間におよぶ膵臓の摘出手術を受けて順調に回復していた。
しかし、'19年1月に肝臓にがんがあることが見つかり同年4月からスタートの『やすらぎの刻~道』のヒロイン役を降板した。そんな中、今年5月、前出の協会が手がけた『昆虫の家』の除幕式には出席。これが公の場での最後の姿となった。
「入院されているとは聞いていたのですが、“昆虫がすむ家ができた”とお伝えすると大喜びしてくれて……。お会いすると、病気とは思えないほど元気でした。
その日の気温は30度近かったのですが、スピーチの冒頭で“すごい暑いですね~”と場を和ませてくれました。明るくてユーモアがあって、大女優という壁はまったくなかったです」(前出・池谷会長、以下同)
彼女が病を押し出席したのには、理由があった。
「『昆虫の家』が建っている『森の墓苑』に来たいともおっしゃっていたんです。以前、環境問題のお話をした際、日本はお墓を造るときに自然を壊しているとお伝えしたことがあったので」
墓石のかわりに木を植えることで、開発された森を再び豊かな自然に戻すという『森の墓苑』が生まれた。八千草さんは人間としての理想の最期をそこに見たのかもしれない。 前出の担当編集は、
「“本を出しませんか?”とオファーしたときが、極秘で膵臓がんの手術を受けたばかりだったそうです。事務所の方からは“本人に相談してみますが、おそらく難しいと思います”と言われていましたが、八千草さんご本人が“書いてみようかしら”と言ってくれたそうです。
事務所の方いわく“きっと本人の中で何か書き残しておきたいことがあるんだと思うんです”と。八千草さんのその思いを、僕もしっかり受け止めなきゃいけないと強く思いました」
生きとし生けるものに“やすらぎ”を与え続けた──。