「うちのお父さん、すごいの。夫婦喧嘩してお母さんが車で逃げると、原付バイクで追いかけて車のフロントガラスに飛び乗っちゃうんだよ(笑)」
ざっくばらんな口調で、中村すえこさん(43)が生い立ちを話すと、身じろぎもせず真剣に聞き入っていた少年たちから笑いが起こった。
最年少総長と2度の逮捕の経験から
宮城県仙台市にある東北少年院でのひとコマだ。そこでは窃盗や傷害、詐欺などの罪を犯した少年32人が生活を送っており、さまざまな矯正教育が行われている。
すえこさんは『出院者の体験談を聞く』という単元の講師として呼ばれ、神奈川県横浜市から来た。自分が何をして少年院に入り、どうやって更生していったかをテンポよく話していく。
中学入学後すぐ不良グループに入り、万引きや窃盗を繰り返した。中学2年でレディースと呼ばれる女子暴走族に入り、中学卒業後には最年少で総長になった。ほかの暴走族に殴り込みをかけ、相手に大ケガをさせて逮捕。16歳で少年院に入った。
出院すると、唯一の居場所だった暴走族を破門されていた。「自分なんかどうなってもいい」と自棄になって覚せい剤を使用。半年後に再び逮捕され、拘置中に妊娠がわかった。面会に来た母に、命を守る責任を説かれ、初めて「変わりたい」と涙した。
2度の結婚で4人の母になり、その後、離婚。働きながらひとりで子育てをし、教師を目指して勉強している。
最後に、少年たちにこんなエールを送った。
「私は40歳で大学に入ったけど、君たちには私にないもの、若さと時間がある。何かになりたいと思ったとき、私もそうだったけど、できない理由とか言い訳ばっかり言ってないで、できる方法を探してほしい。あとは自分との戦いです」
東北少年院での講話を終えると、隣接する女子の少年院・青葉女子学園に向かった。
すえこさんは出院が近い2人の少女と対面し、さまざまな質問を受けた。
「少年院を出たら偏見の目で見られますか?」
「あるよ。特に私は地元で有名だったから。理解がなければ雇ってもらえないし。脅しじゃないけど、本当に偏見はあるから、必要がなければ少年院にいたことは言わなければいいと思う。それは自分で決めればいいこと」
少年院では出院後、昔の非行仲間とは付き合わないように指導される。
「悪い友達とは、どういう友達ですか?」
ストレートな質問に、すえこさんはしばらく考え込んだ。
「難しいね……。相手の幸せを望んでくれない友達かな。蹴落としてやろうとか、裏切ってやろうとかして。ひとりで覚せい剤をやるのが寂しいから一緒にやろうぜと言うのはいい友達じゃないよね」